切り抜きとバズり
その後、私は汐里と一緒に一泊二日の京都旅行を楽しんだ後、家に戻った。
昨日はあんな事件に巻き込まれたけど旅行自体はすっごく楽しかったな、と思いつつ私はベッドに寝転がって動画サイトを開く。昨日今日は全然見れなかったからいつも見ているチャンネルが更新されてないかな、と思っていると。
『流星きらりライブを怪人から救った魔法少女、蛮族すぎるw【魔法少女切り抜き/スター・ライト/クリムゾン・フレア】 投稿日:昨日 再生回数:37万』
『日本海の狂犬クリムゾン・フレア、流星きらりを救う【切り抜き】 投稿日:昨日 再生回数:15万』
『流星きらりのライブ、謎の魔法少女に救われる【魔法少女クリムゾン・フレア/切り抜き】 投稿日:昨日 再生回数:7万』
「何じゃこりゃあああああああああああああああああっ!!??」
動画サイトのトップ画面に出てきた動画を見て、思わず私はベッドの上で叫んでしまう。
魔法少女の配信は魔力を受け渡す都合上専用のアプリでしか見れないが、人気魔法少女は配信で何かすごいことやおもしろいことがあるとその場面を編集した動画、通称切り抜き動画が動画サイトに上げられる。私程度の知名度だとあまり縁がなかったけど、それまで登録者が少なくても切り抜きで突然人気を得る魔法少女が年に数人はいるらしい。
聞いたことはあったけど、まさか私がそのポジションになる日が来るなんて。とはいえそれ自体は冷静に考えてみれば当然の話ではある。流星きらりライブという大注目の場所で彼女の危機を救い、しかも怪人との戦いという珍しい場面になったのだから、注目を浴びるのはむしろ必然だろう。
問題はその注目の浴び方だ。
一番再生数が多い動画のサムネでは、ライブ会場で怪人の顔面を殴りつけている私の画像がアップになっている。
「誰が蛮族系魔法少女だ、誰が!」
しかも偶然なのかその方がおもしろいと思われてるのか、私をそういう風に煽っている動画の方が再生回数が多い。
試しにその動画を開いてみると、きらりの配信と私の配信をうまく編集して当時の状況が分かりやすいようになっている。
しかし、私が消火器の煙の中から颯爽と登場したシーンはぎりぎり配信が始まっていなかったせいで、私が怪人に対して脅したり殴ったりしているところばかりが動画にされている。
『おい、死にたくなければ今すぐ武器を捨てて投降しろっ!』
『うるさい、全身丸焼きの焼死体になりたいのかっ!』
『うるさい、そっちこそ銃を降ろさないと消し炭にするよ?』
仕方がなかったとはいえ、確かに第三者目線で自分の発言を聞いてみるとすごいこと言ってる……。
「くぅっ、悪意のある切り抜きじゃないのにこうなってるのが余計に腹立つ!」
試しにコメントを読んでみると、
”うわ、今時こんな魔法少女いるんだw”
”怪人より悪役っぽい”
”見る前のワイ「きらりちゃんとファンを助けてくれた恩人に蛮族は失礼だろ」
見た後のワイ「うーん、これは蛮族」”
”むしろ怪人が可哀想”
”草”
”きらりを助けてくれてありがとうございます蛮族系魔法少女さん!”
”おもしれー女”
”俺も怪人になればフレアたんに殴ってもらえるかな”
などの失礼なコメントが並んでいる。まあ約一名見慣れたコメントもあったけど……。
「はぁ、何これどうしよう。いや、どうしようもないんだけど」
ふとU-Phoneを見ると、支部長からメッセージが来ていた。
『登録者五万人おめでとう! よくやったわ!』
「はい?」
私の元の登録者は一万人ほど、それもほとんどニュース感覚で登録している地元の人だった。それが急に五万なんて、と思いつつアプリを見ると、
『現在の登録者:70,568』
「いやいやいや、そんな訳ある!?」
支部長からメッセージが来てからさらに二万人も増えてるんだけど!
いくら切り抜きがバズったからっていきなりこんなに伸びることあるか?
困惑しつつも私は先ほどの切り抜きを見返してみる。そしてその切り抜きのきらり視点を見ていた時だった。
敵に見せられたライブ会場の映像内に私が現れると、私の予想通りきらりは即座に目の前の怪人を捕え、私の配信を確認しながらライブ会場へと飛ぶ。
怪人に脅された時は動揺を見せたきらりも、すっかりアイドルモードを取り戻してリスナーと会話をしていた。
『あの会場の魔法少女は誰?』
『そっか、クリムゾン・フレアって言うんだ。ありがとう、フレアちゃんのおかげで私もみんなも助かったんだね』
『じゃあみんな、今から私の配信を閉じてフレアちゃんの配信を開いて』
『そしたらフレアちゃんに魔力が行くでしょ? あとついでにチャンネル登録もしといてね。絶対だよ~』
「……なるほど」
あの時急に魔力が増えたのはそういうことだったのか。きらりの配信を見ていた人が一斉に私のところに来たのならあの急激な増え具合も納得がいく。
それと同時に昨日きらりに言われたお礼にチャンネル登録者が欲しいかという質問を思い出す。そっか、私が欲しいって言ったらきらりはまたこうやって私の登録者を増やしてくれようとしてたんだ……。
現実味がなかった七万という数字にようやく思考が追いつき、それはそれとして私は改めてきらりの影響力の凄さを思い知る。
きらりのファンと、切り抜きから物珍しさで来た人。これで現在進行形で登録者が増え続けているのか。一体どうしよう……。
「ま、いっか」
結局私はどうもしないことを選択して、動画サイトを閉じてベッドに寝転ぶのだった。
『常盤茜(クリムゾン・フレア)様
いつもお世話になっております、魔法少女富山協会支部の立山です。先日京都で捕えた怪人たちの調査報告が届いたので送ります。詳細は添付の資料を見ていただければと思いますが、概要は以下の通りです。
・彼らは福井を拠点に活動する怪人組織の一員
・非現実の力を神聖視しており、その力で日本を支配することが目標
・現状彼らに非現実の力の収集・強化を有効に行う方法はなく(せいぜい例の強化スーツ程度)、魔法少女の力を使ってのテロを試みている
今後も情報が分かり次第追って連絡します。
もしかしたら再び彼らと遭遇するかもしれませんが、その際は一層の奮戦をお願いいたします。 立山』
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