流星きらりライブ2

 そしてその日はあっという間にやってきた。


「うっ、眠い……」


 普段の学校とそんなに変わらない時間に起きたけど、休日に早起きするとすごい損した気分がするし眠い。


「おっはよう~!」


 私が眠い目を擦って富山駅で待っていると、ハイテンションな汐里が駆け寄ってくる。汐里の私服は何度か見たことあるけど今日はいつにも増して気合が入っている。旅行だからって動きやすい恰好で来た私とは大違いだ。


「おはよう、朝から元気だね」

「そりゃそうだよ、だってついに今日は生きらりちゃんが見れるんだから!」


 そう言って汐里は目を輝かせる。

 生きらりか。確かに配信越しで見てもあれだけのオーラがあるなら、生で見たらすごいんだろうな。


「という訳で今日は着くまできらりちゃんの曲を全部覚えてもらうよ!」

「え、私眠いんだけど……」

「だめだよ、ちゃんとコールとかした方が絶対楽しいんだから。茜にも120%の状態でライブを楽しんでもらわないと」


 そう言って汐里は新幹線の席に座るなり私の耳にイヤホンを突っ込んできらりの動画を再生し始める。眠いと思いつつ、曲が始まるときらりのパフォーマンスに私はつい見入ってしまうのだった。




 その後私たちは京都に着くと、ライブ会場である洛北アリーナに向かった。会場に近づくときらりのグッズをつけていたり、きらりのTシャツを着たりしている人が増えてくる。もし私がアイドル魔法少女にされて自分のグッズを身に着けている人だらけになったらどうだろう、恥ずかしくて外に出れなくなってしまいそうだな、などと思いつつ現地に向かう。


 物販にはさすが人気アイドル価格と思われるグッズがたくさん並んでいたが、高校生である汐里の財布には荷が重いようで、泣く泣くペンライトとTシャツだけを買っていた。私の魔法少女貯金があれば大人買いしてあげることも出来るけど、さすがにやめておこう。ただでさえ詳細を言えないバイトなのに、急にそんな羽振りが良くなったら絶対怪しまれる。


 会場内に入ると、中はすでにむせ返るような熱気に満ちていて、私たちは急いで上着を脱ぐ。

 周囲のファンたちはTシャツやタオルを身につけ、手にはペンライトを握りしめている。私と違ってガチ勢ばかりに見えて少し不安になるが、そんな私の気持ちを察したのか、汐里が小声でささやく。


「大丈夫、始まっちゃえば新参も古参も関係ないよ」

「う、うん……」


 それから長いような一瞬なような時間が過ぎ、ついにステージの幕が開ける。

 イントロと同時にステージにゆっくりと流星きらりが歩いてくると突然スポットライトが当たり、ドレスで着飾ったきらりの姿が照らされた。すごい、こんな遠くなのに配信で見ていた時よりもきれいに見える。

 さっき散々勉強させられたから分かる。これはあの曲だ。

 きらりが歌い出した瞬間、ぱっとステージの上部が輝き星空のような光が映し出される。名前の通り夜空と星々をイメージしたステージの中、きらりは透明感のある声で歌い出す。配信でファンサをしていた時の距離が近い雰囲気とは少し違う、アイドルとしての美しさ。そんなきらりのステージに思わず私も引き込まれてしまう。

 曲が終わるとステージがぱっと明るくなり、きらりの顔にぱっと笑顔が浮かんだ。


「という訳で一曲目は『夜闇を照らして』でした~。改めてみんな、今日は来てくれてありがとう~!」


 そう言ってきらりが手を振ると会場全体から割れんばかりの歓声が上がる。


「それじゃあ次はがらっと雰囲気を変えて、『Happy Strawberry』」


 きらりが叫ぶとステージが赤とピンクの光に照らされる。

 それと同時に彼女は光に包まれると、次の瞬間には曲をイメージしたピンク色の衣装に変わっていた。

 え、今のって絶対魔法少女アプリを使ったよね!?

 内心突っ込むがきらりのファンのライブではいつものことなのだろう、特に訝しむファンはいない。


 魔法少女アプリは衣装を登録すれば好きに変身することが出来る。衣装は魔力で生成されているため、どれだけ凝った衣装でも一瞬で着替えられてしまう。

 まさかその機能をライブで使うなんて。出動時以外の変身は魔力の無駄遣いだから基本的にはしないように言われてるけど、きらりの場合はファンからもらう魔力が多すぎて多少無駄遣いしても圧倒的な黒字なんだろうな。

 さっきの曲とは違い、どうしてもそんな不純な視線で私は彼女のことを見てしまう。どちらかというと静かな曲調だった一曲目から一転、今回の曲は激しいダンスだった。しかしきらりは遠くから見ても分かるぐらいキレのある動きでこなしていく。


 魔法少女のことを思い出したせいだろうか、私はふとU-Phoneに通知が来ていることに気づく。今日はちゃんと休みをとっているし、そもそも京都には京都担当の魔法少女がいるから私が気にする必要はない。とはいえつい気になって私はポケットの中のU-Phoneをチラ見してしまう。


『鞍馬山付近にてリアル値の急速な低下を確認。近隣魔法少女の迅速な出動を求めます』

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