新挨拶と新衣装お披露目(強制)3

「もう、やっぱりあの衣装は嫌です!」


 支部に戻った私はすぐに支部長に抗議する。

 が、彼女は特に気にした様子もなく答えた。


「おかげで早速リスナーが増えたわ。やっぱり私の目に狂いはなかったわね」

「そういう問題じゃありません! おかげで色々と戦いづらかったし、やっぱりあれじゃその、み、見えちゃいます!」


 私は机をたたいて抗議する。いくら魔力が必要だからって見世物のように扱われるのはどう考えてもおかしい。


「大丈夫よ、魔法少女カメラは高性能AIにより性的な映像は映らないように調整されてるから。さっきのコメントは願望かただの勘違いよ」

「本当ですか?」


 一応私は先ほどのアーカイブを確認する。社畜霊の攻撃を受けて私の炎が消えてから私がぶちぎれるまでをスローモーションで再生するが、複数あるカメラがうまく切り替わり、スカートの中が見えている様子はない。良かった、配信に載ってたら最悪一生その映像が出回るところだった。


「はぁっ……」


 それを確認してほっとするとともに、それはそれであのコメントに動揺した自分に腹が立ってくる。


「それよりも、おかげで今回は支部の魔力消費は大分抑えられたわ」

「まあ、それは良かったですけど……」

「という訳でこれからも頑張ってリスナーを増やしていきましょうね」

「絶対嫌です」


 今回は仕方なく受け入れたが、今後のこととなると話はまた別だ。


「ところでこれは何かしら」


 が、支部長はにこにこと笑いながらさっきのアーカイブを巻き戻す。


『ザンギョウキエロ』

『カイシャ、キライ』

『ジョウシ、ウルサイ』

『確かに上司はうるさいし、勝手に衣装変えたり挨拶考えろとか言ってきたりして面倒くさいけど……』


 目の前で再生される自分の音声に私は凍り付く。

 まずい、そう言えばそんな失言もしちゃってたっけ。


「どこの世界に配信中に敵に共感して上司の悪口を言う魔法少女がいるのよ!?」

「す、すみません……」


 こればかりは私の失言なので謝るしかない。


「もう、ただでさえ戦闘中に魔法少女にあるまじきことばっかり叫んでるというのに」

「すみません」


 いつもなら何を叫ぼうが自由ですよねと言い返すところだけど、今は旗色が悪い。


「はぁ、茜さんが人気になれるように頑張ったのに数千人の前でこんなこと言われると傷ついちゃうな~……」


 そして支部長はわざとらしくため息をついて落ち込んでみせる。

 絶対あの程度で落ち込むような人じゃないのに。

 卑怯な手を使いやがって、と思うが失言してしまった私が悪いのは否定できない。


「ま、まあたまにで良ければファンサもちゃんとやりますから……」

「本当にっ!?」


 私がそう言った瞬間支部長は笑顔になって私の手を握る。

 うわ、やっぱりこうなるんだ……。


「茜さんがそう言ってくれて嬉しいわ。さて、次は何をしてもらおうかしら。茜さんは伸びしろがいっぱいあるから考えるのが楽しみ」

「あ、はい……」

「とりあえず次は何をするのが有効か考えておくから、決まったらその時はよろしくね」

「はい、次は突然ではなくなるべく事前に伝えてもらえると嬉しいです……」

「ふふふふふっ」

 

 あ、これはまた不意打ちされるやつだ。

 ただでさえ気が重いのにいつ何をされるか分からないのが嫌すぎる……。ということは一周回って不意打ちの方がましなのだろうか?

 私が内心ため息をつくと、ふと支部長が思い出したように言う。


「ところで茜さんって恋人いる?」

「え、いませんけど」

「やっぱり。まあそれなら良かったわ」


 話はそれで終わりそうになったがそれはさすがに聞き捨てならない。


「え、やっぱりって何ですか!?」


 私の言葉に支部長は珍しくぎくりと身体を震わせる。


「支部長も私のこと『恋人とかいなさそうだな』みたいな目で見てたんですか!?」

「い、いえ、他意はないわ。ただ魔法少女と学業の両立だけで大変かなと思っただけで……」


 口では否定するものの、目は泳いでいる。


「どうせ私は流星きらりと違って顔は普通、口は悪いし胸も小さいですよ」


 最近言い負かされてばかりの支部長に反撃するチャンスが見つかったのでここぞとばかりに畳みかける。

 すると彼女は本当に申し訳なさそうな顔になりながら言う。


「ごめんね、別にそういうつもりじゃなかったの」

「本当ですか~?」

「ええ、若狭江莉、いえ魔法少女シャイニング・エリスって知ってる?」

「ああ、前に福井のあたりを担当してた人だっけ」


 私はあまり他県の魔法少女に詳しくないが、そこそこ有名だった気がする。流星きらりほどではないが、アイドル的な人気があったらしい。そう言えば最近あまり話を聞かないな、と思っていると。


「そう、若狭江莉も大人気魔法少女だったけど彼氏がいるのが発覚して今では活動しなくなってしまったの」

「……?」


 何で彼氏がいると活動しなくなるのだろうか。

 やっぱり地域の平和よりも男とイチャつく方が大事だから?


「彼女はきらりみたいに熱狂的なファンをたくさん抱えていたわ。しかし彼氏がいたと知れ渡ると、配信が荒れに荒れてしまって」

「どうして?」


 ますます理由が分からない。敵が出現した時に彼氏とイチャついて出撃しなかったとかならまあ荒れるのも分かるけど。

 そんな私の反応を見て支部長はため息をつく。


「いい? 魔法少女に限らずタレント的な側面を持つ人は大なり小なりファンから疑似恋愛感情とでも言うべきものを向けられているの」

「はぁ」

「きらりや江莉のようなアイドル型は特にね。それなのに恋人がいるなんて知れたらファンの人はよく思わないでしょ?」


 そんなの勝手じゃないか、と思う一方で私はこの前の流星きらりの配信を思い出す。確かにあんな風に『みんなのことだ~いすきっ』みたいなキャラでやっておいて裏で男とイチャついていたら騙されたと思ってしまうのも分からなくはない。


「でも何でそんな話を急に?」

「最近魔法少女活動を休止していた若狭江莉がいなくなったという話を聞いて、ふと思い出したのよ」

「色々面倒くさいですね。やっぱアイドル型とかやめた方がいいんじゃ……」

「そう、だから一応確認しておいたんだけど恋人がいないなら続けても問題ないわね」

「うっ」


 くっ、まさか恋人がいないところがこんなところで悪い方に働くなんて。

 こうして私はなぜか余計な傷を負わされて支部を出るのだった。

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