沙姫帆の涙に弱い暁

鞠谷は、結構、小心者って言うか、

意外って言うか・・・

昔から、人や、車が通っていない、

赤信号とか、渡らなかったし、

拾ったお金を交番に届けるとか、

正直者で、お人好しだったよな。

お釣りが多くても、

正直に言っちゃうような奴だったし。


確りしているって言うか、

母親的要素も十分発揮できるタイプだから、

不思議な奴だ。

部活や、クラスのリーダーとか、

割と難無くこなすよな・・・


でも、それは、『対外的な鞠谷』だ。


『恋人としての鞠谷』は、全然、違う。

臆病で、自分に自信が無くて、

恋愛の自尊心が、鞠谷には無い気がする。

相手も信じられなくて、直ぐ逃げる。


「・・・・付き合っている子が居たら

・・・・結婚していたら・・・

そう思うと、勇気が無かった。」

戸倉君が、どう思っているか分からず、

私は、言葉は選んだけど、正直に伝えた。


他の奴は、知らないが、

俺の家に電話したら、家族が出るし、

携番も知らないし、

細かな不安もあっただろうが・・・・

「・・・でも、伝えたかっただろ?

逢いたかっただろ?」


「・・・・・ごめん。」

戸倉君が怖いけど逃げるつもりは無かった。

私は、それはもう、駄目だと、

何度も彼に、今まで、言い聞かせられたし、

自分自身にも、言い聞かせてきた。


俺は、煮え切らない鞠谷に、

つい声を荒げてしまった後で、謝られて、

「謝って、欲しくなんか無い!」

そう、強く言い放った。


私は、戸倉君の言葉に、ビクッとした。

「・・・・」


やばっ、今度こそ、泣くかな?

・・・やっはり、逢っていると、

泣かれたくない。否、泣かせたくない。


鞠谷が、泣き出したら・・・・・

俺は、

鞠谷を抱き締めて、慰めちゃうよ・・・


さっきまでの意気込みと違って、

弱気な感情を抱いた暁。

また、少し優しい言い方になった。


「俺、あの時言ったよな?電話して来いと。

自分の気持ちが解かったら、

そこから始めれば良いって。」

俺は、当時を思い出してそう言った。


「・・言った。・・だけど、・・・・」

泣きそうになるのを堪えながら私は答える。


沙姫帆は、泣いてなかった。

泣き出してしまうのは、簡単だけど、

それをする事を必死で、

留まっているように見える。


目に一杯に溜めた涙を、

落とす訳にはいかないと、必死に堪えてた。


そんな表情を暁は、確りと読み取っていた。

その必死な沙姫帆の姿を、

暁は久しぶりに見た光景だった。


もう、限界かな?

涙が、頬を伝ったら、俺は、コイツを、

もう、責められないな・・・

大して、責めた訳でもないが、

仏心を出してしまう。


なんでか、コイツの流す涙には、弱い俺。

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