夜に寄り添う彼の言葉
Algo Lighter アルゴライター
第1話 雨上がりの約束
梅雨の終わりを告げるように、厚い雲がようやく割れ、陽光が濡れた街を照らし出す。駅前のベンチに腰を下ろした玲奈は、肩に貼りつく濡れた髪をタオルで拭いながら、深く息をついた。突然の豪雨に呑み込まれ、逃げ込むようにこの場所へたどり着いたが、傘もなく、ただ震えるしかなかった。
「風邪ひくぞ」
不意にかけられた声に、玲奈は驚いて顔を上げた。逆光の中、立っていたのは懐かしい面影。
「悠斗…?」
「お前、相変わらず雨女だな」
高校時代の同級生、悠斗が苦笑しながらタオルを差し出す。その手は変わらず大きく、温かかった。玲奈は遠慮しようとしたが、悠斗は強引に彼女の髪を包み込む。
タオル越しに伝わる体温。ふわりと香る柔軟剤の匂い。玲奈の心に、過去の記憶が鮮やかによみがえる。バスケ部の帰り道、突然の雨に打たれ、いつも彼がこうしてタオルを貸してくれた。
「ねえ、悠斗。覚えてる?卒業式の日、雨だったよね」
「ああ。お前、泣きながら笑ってたな」
「だって、あの日…」
玲奈は言葉を詰まらせた。あのとき、告白しようと決めていた。けれど、悠斗の進学先を知り、結局何も言えなかった。
「お前って、ほんと変わんねえよな」
悠斗の何気ない一言が、玲奈の胸をきつく締め付ける。
「変わってないのは、悠斗もでしょ」
「俺か?…まあ、そうかもな。でもさ」
悠斗はふっと目を細め、玲奈を真っ直ぐに見つめる。
「お前が変わってないのは、ちょっと嬉しいかも」
玲奈の心に、静かに温もりが広がる。すれ違った時間も、あのとき言えなかった想いも、少しずつほどけていく気がした。
遠くで駅の鐘が鳴り、時計が17時を告げる。
「そろそろ帰らなきゃな」
悠斗がふと呟く。そして、少しの間を置いて、ぽつりと言った。
「…なあ、今度さ、飯でも行かね?」
「えっ?」
玲奈は思わず目を丸くする。
「いや、別に深い意味とかじゃなくて。ただ、お前と話すの、やっぱり楽しいし」
悠斗は少し照れたように目を逸らす。その仕草に、玲奈の口元が自然と緩んだ。
「うん、行きたい」
悠斗の表情が、驚いたように一瞬固まる。しかしすぐに、優しくほころんだ。
その笑顔を見た瞬間、玲奈は確信する。ずっと閉じ込めていた想いが、今、静かにほどけていく。
空には美しい虹がかかっていた。
雨上がりの午後。滲んでいた過去が、優しい色に染まりはじめる。
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