現代童話物語(オトギ・ファンタジア) 〜僕は男だけど白雪姫らしい〜

綾崎かなめ

序章~第1話(1)

序章


 いつものように……そう、いつものように鏡の魔女は自らの持つ魔法の鏡に問いかけた。

「鏡よ、鏡……鏡さん。この世で一番美しいのはだぁれ」

 また魔女の質問に対する鏡の答えも、いつものように決まり切っていた。

「それは魔女さまでございます」

 美しい魔女に忠実な鏡は彼女の気分を害するようなことはせず、魔女を賛美するような代り映えがしない答えを返す。そんな予定調和が繰り返されるはずだったが、その日だけは違った。

「それはスノーホワイトでございます」

 魔女は歯噛みした。自分よりも美しいと鏡が答えたスノーホワイト。絶対に許しておけないと魔女は心の胸に決意を抱いた。


第1章


 僕の名前は白井雪姫(しらい・ゆき)。普通の男子高校生だ……と答えたいところだけど、残念ながらそうではなかった。その理由は周囲の目を見るに明らかだった。

「あそこを歩いている女の子。かわいすぎないか」

「おい、アイツはやめとけ。知らないのか、アイツは……」

 そんなひそひそ話が、周囲でいくつも繰り広げられている。まったく困ったもんだ。その視線は黒髪で長髪の似合う、セーラー服を着た見目麗しい美少女……つまり、僕に向けられていた。くれぐれも断っておくが、先ほども断った通り僕の戸籍上の性別は男である。


 どうして、そんなことになってしまったかというと、問題は僕の両親にあった。両親は子どもの性別が未確定な時期から、女の子が欲しくて生まれたら雪姫という名前にしようと決めていたそうだ。しかし、残念ながら生まれてきたのは男だった。


 どうしてもと思った両親は息子に対し、雪姫というおおよそ男に似つかわしくない名前をつける暴挙に出たそうだ。それだけでもひどい話だが、千歩譲って許そう。


 それどころか、小さいころから女の子らしく育てられ、洋服も男の子のものではなく女の子のものを買い与えられた。こうして出来上がったのが今の僕である。


 なぜか高校の制服も男子用ではなく、両親から女子のセーラー服を用意された。さらに中学生に上がったばかりのころに一度、伸ばしていた髪の毛をさっぱりと短く切ってもらい男の子らしい髪型にしたら、ものすごく両親から怒られた記憶がある。


 一人称も親は私にしてほしいようだ。だが、個人的には男らしく俺にしたいと思っている。もっとも、まだ親に養ってもらっている立場上、歯向かうわけにもいかず折衝案として僕を提案し、両親の「ボクっ娘も良いじゃないか」という謎理論で許してもらっているわけだ。


 考えれば考えるほど、頭の痛くなってくる状況だが、これが僕を取り巻く周囲の環境である。本当になんだこれ……。


「おっす、雪姫。おはよ」

「雪姫くんだー。今日も相変わらずかわいいねぇー」


 頭を悩ませていると後ろから声をかけてくるふたり組がいた。両方とも僕の親友で、フランクに声をかけてきた男が大神正義(おおかみ・まさよし)。今にもよだれをたらしそうな勢いでおじさんのようなグヘヘ笑いをしている女の子が大路紗貴(おおじ・さき)だ。


 もはや知らない人のほうが少ないほど有名になってしまったとはいえ、周囲の視線で針のむしろ状態だったからふたりがいてくれるだけで心が休まるというものだ。

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現代童話物語(オトギ・ファンタジア) 〜僕は男だけど白雪姫らしい〜 綾崎かなめ @kaname_aya

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