第10話 リリーとハイト

 ハイトと離れて不安げなリリーに、シルビアは白銀のミサンガを編み、首輪に縫い付けてやった。

「心配することはないさ、リリー。ハイトは人の世を生きるために修行に出ただけだ。大変なことも経験するだろうが、あの子なら大丈夫。見守ってやろう」

 シルビアはそう言って、リリーを膝の上に乗せてやった。ハイトがいないことに慣れるまではずっと気遣わしげに窓の外を眺めていたが、毎日元気に帰ってくるハイトの姿を見るとやっと安心し、のんびり寛ぐようになった。リリーの首輪に縫い付けたミサンガは、ハイトの寂しさを拭うために編んだミサンガと同じ色だった。お揃いのミサンガを持つことでより安心感を得られる。

「ハイトとリリーは強い絆で結ばれているようだね。どんなことがあっても、二人は離れてはいけないよ」

 シルビアはハイトとリリーにしょっちゅうそう言い聞かせた。二人としても離れ離れになるつもりは毛頭ない。

 ハイトはシルビアの元で日々ミサンガの編み方とまじないの掛け方を学んでいった。

「ハイト、まじないを扱うためには体も強くならなくてはならないよ」

 シルビアのその言葉でハイトは武術や剣術も習い始めた。元々体を動かすことが好きなので貪欲に稽古に励み、めきめき強くなっていった。

 リリーに関しては保護直後、名うての獣医からこんなことを言われた。

「シルビア様、この猫は長寿種ですわ。珍しいことですなぁ。猫に限らず、色んな動物でちょくちょく見られることなんですが、私も年に一度、お目に掛かるか掛からないかの頻度ですわ。一万匹に一匹とか十万匹に一匹とか言われますが、正確な割合は分かっていません。いやぁ、興味深いことです」

 元よりハイトとリリーは保護した時から只ならぬオーラを放っていた。特殊な能力を持っていても驚くことではない。

 二人を観察していると、こそこそ何かしら語り合っていることがある。小声で話しているのでシルビアには何を話しているのか分からないが、案外リリーは人語も話すのかもしれない。

 そんなハイトも幼児学級から初等学校、さらに中等学校へと進学し、いつしかシルビアの元に来てから十年が経った。中等学校では願いが叶うおまじないとしてハイトの編むミサンガが同級生の間で流行した。特に恋愛成就のお守りとして重宝され、ハイトは毎日同級生のためにミサンガを編んだ。わざわざ編むところを家まで見に来て、ハイトが糸を編むそばからこんなことを訊く子もいた。

「ハイトは気になる子とかいないの?」

「うん。僕にはそういう子はいないよ」

 ハイトは臆するわけでもなくそう返事をした。

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