二月十四日

第3話

「あーあ、結局今年のバレンタインも彩月だけか」


項垂れる幼馴染みの海人は、バレンタイン数日前から女子に優しくしたり甘いもの好きアピールしたりと、地道な営業努力を重ねていた。


が、それも今年も無駄だったらしい。


「毎年毎年すまないね……」

「それは言わない約束でしょ」


くだらないやり取りをしながら、昨日徹夜でつくったチョコレートを手渡した。


やっぱり、義理だと思ってるんだろう。

いくら幼馴染みといえ、義理チョコにこんなに気合いの入った可愛いラッピング、するわけないのに。


「……馬鹿」

「え?何か言った?」

「別にー」

「んだそれ。いただきまーす」

「ああっ!ちょっと待って!」


ラッピングのリボンをほどこうとしたその手をがっちりと掴んで、どうにか静止した。


「……そ、それ、家で食べてくれないかな」

「え?なんで?」

「なんでも。良いからとにかく、一人でゆっくり食べて」


腑に落ちない様子で、鞄の中にチョコレートをしまう海人。


「じゃあ俺部活行くわ!ありがとな!」

「ん、行ってらっしゃい」


部活人間海人の、その部活前のとびきりの笑顔に、危うく息も忘れそうなほど、ときめく。


行ってらっしゃい、だけじゃない。

本当はあと一言、あと一言、素直に。


「海人!」

「ん?」


グランドに走り出そうとしていた海人を呼び止めた。



「……頑張って」


キョトンとした海人から、目を反らさない。

どいせこいつは鈍いから、私が赤くなろうがならまいが、気付かないんだし。


「うん」


ふっと微笑んで走り出した海人は、まだ知らない。

今年のチョコレートは、いつものとはわけが違うってこと。


もう分かったんだ。

毎年毎年健気に海人にチョコレートを渡し続けてるけど、あの馬鹿には結局言葉がないと伝わらないんだって。



「海人が、好き」


チョコレートの箱の中に一緒にしまった小さな手紙。

その手紙と同じ言葉を一人呟いて、小さく息を吐き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る