第94話

……お父さんが、帰ってきた。


お母さんが私たちに頷いてから、玄関へお出迎えに行った。



「斉藤さん来たか」

「はいはい来てますよ」



お父さんのワクワクした声と、お母さんの呆れたような笑い声。



「こんばんは」



お父さんがネクタイに手をかけながらリビングにやって来ると、スーツ姿の斉藤さんが綺麗にお辞儀をした。


お父さんは、面食らったようにいくつか瞬きを繰り返す。



「……び、びっくりした。斉藤さんのスーツ姿。ていうかなんで……」

「今日は聞いていただきたいお話もあるんです」



はあ、と不思議そうに返事を溢すお父さん。


まあまあまずは楽しくお食事しましょう、と言ってお母さんがさっきのお寿司をテーブルに並べた。



「これ斉藤さんが持ってきてくださったのよ。百合、お酒出してくれる?」

「は、はい」



慌てて食器棚から二人分のグラスを取り出した。

それと、お寿司用の小皿とお箸。


……あれ、もしかしてお猪口の方が良いのかな。

いや良いや、ぐびぐび飲んでほしいし。



「しかしあれですな。さすがモデルさんとなると、普段は見慣れてるはずのスーツも、こんなに格好良いもんなのかって思いますね」

「とんでもないです。あまり着ないものですから、慣れなくて」



隆二が二人にお酌した。

さっきの、アルコール度数高め、のやつ。



「それで何ですか。聞いてもらいたい話って」



今のお父さんは完全にご機嫌。

切り出すタイミングとしては、決して悪くなかった。



斉藤さんのアイコンタクトを受けて、斉藤さんの隣にすっと腰を下ろす。


お父さんの顔に、はてなが浮かんだ。




「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。実は、一ヶ月ほど前から、百合さんとお付き合いさせていただいております」

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