第85話

ベランダに出て405号室の方に顔を向けると、壁越しに斉藤さんと目が合う。

にこりと微笑みながら、軽く手を振っている。


壁一枚隔てたまま、二人最大限まで近付いた。



「こうしてみると案外近いもんですね。普通に手握れるじゃないですか」



そう言って握られた右手。

ぴくり、と体が揺れ、誤魔化しようがなかった。



「あ、すみません」



そんな私に斉藤さんが気付かないわけもなく、謝られて離れていく手。


斉藤さんにとってはなんでもないことでも、私にとっては色んなことが初体験で、いちいちドキドキせずにはいられない。


なんとなく気まずくなって、お互い目を反らした。

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