第57話

「お邪魔します、あ、ルンバだ。可愛い」

「可愛い……?変な趣味してますね。それ一週間くらい前に買ったんですよ。ルンバなんかどうでも良いから見てください」

「はいはい」



斉藤さんに腕を引っ張られてベランダに出た。


なるほどたしかに盆栽がある。

しかも一つじゃない、三つある。



「どうですか」



盆栽ほど感想聞かれて困るものってないよ。


ちらりと隣を見れば、やっぱりわくわくした目で私を見つめていた。



「いやなんというか、風格を感じます。お見事だと思います」

「分かります?さっすが前原さん!」

「あ、これとかこのへんが自然な美しさでね」

「そうなんですよ!」



どうやら私の言っていることは的を得ているらしい。

喋れば喋る程に斉藤さんのテンションが上がっていく。



「前原さんがここまで分かる人だとは。若いのにお見事です」

「はあ、私も自分で自分が怖いです」



突然「そうだ!」と顔を上げた斉藤さん。

すぐさま私に視線を合わせて「お願いがあります」とそれはそれは格好いいキメ顔を見せてきた。


瞬間、これは何を頼まれても私は断れないだろうと覚悟を決めた。

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