第53話

いるかないるかな。

多分いるだろうけど。


二回目だというのに、インターフォンを鳴らすのは、なぜか前よりも緊張した。



「はーい」



ガチャ、と音がした。


久々の至近距離の斉藤さん。

一瞬固まってしまったあとで、しまった話題を考えてなかった、と気付く。



「……回覧板です」

「あ、どうもどうもー」



馬鹿か私は。

会話をするためにわざわざ回覧板持ってきたのに。


とのたうち回りたい気持ちになったけれど、話題は斉藤さんから振ってくれた。



「そういえば前原さん」

「はいっ!?」

「この間のデート、どうでした?」

「え」

「いややっぱりそういうのって気になるじゃないですか。聞きたかったんですけど、最近なかなか会話できなかったから」



なんかその言い方じゃ、斉藤さんは私と会話したかったみたいな……。


いやいやただデートの結果報告をお望みなだけだから。

ただのしがない好奇心だから。



「えっと、面白かったです。竹下の性格がすごく男前でドンピシャでですね」

「竹下?って言うんですか?デート相手」

「あ、いえ!すみません映画です。【竹下は今日もゆく】を見に行ったんです、その竹下の話です」



私としたことが、話の順番を間違えた。



「……ていうかですね、やっぱり私恋愛って向いてないんじゃないかなとか。思ったり、思わなかったり、らじばんだり……」

「あ、懐かしい。どうしたんですか。振られたんですか?」



首を横に振った。


斉藤さんが少しだけ屈んで私の顔を覗き込む。

その仕草、緊張するからやめてほしい。

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