第35話

よく考えてみれば、斉藤さん家のインターフォンを鳴らすのは初めてで、自分から行くと言ったものの、緊張した。


留守だったら、とも一瞬思ったけれど、がチャリと音をたてて扉が開き斉藤さんはすぐ出てきた。


この人本当に仕事ないのかな、大丈夫なのかな。



「斎藤さん回覧板です」

「あ、どうもありがとうございます」

「……」



見上げるとバッチリと目が合った。



「あの、何か?」



斉藤さんが首を傾げて私を見下ろす。



「あ、すみません。今日あの雑誌買ったんですよ」

「え、本当ですか!ありがとうございます!」



取り繕うように出た言葉に、斉藤さんは跳ねるように喜んだ。


びっくりした、こんなに嬉しそうな斉藤さん、初めて見た。



「格好良かったです。びっくりしました」

「はぁぁ……もうお世辞でも嬉しいです」



斉藤さんの頬がゆるゆると緩んでいく。

なんだかそれが、すごくすごく、嬉しい。



「お世辞じゃないですよ。本当に斎藤さんがあの中で一番格好良いと思いました」

「え」

「え?」



途端、斉藤さんが笑顔のまま固まって、みるみるうちに赤くなっていく。


うわ、何これ。超可愛いんだけど。

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