第18話

一番近い自販機は家のすぐ下にある。


小銭だけ持って自販機にたどり着いて、暫く固まった。



「……なんでバナナ茶ないの!?」



バナナ茶。

私がいつもこの自販機で買うジュース。

いやお茶だろうか。いや多分あれはジュース。


とにかくこの自販機に備わっているドリンクの中で一番のお気に入りだった。のに。


なくなってる……。



「あ、本当だ。ざまあ」

「なんで……」

「人気出なかったんだろ。あんなくそ不味いもん好き好んで買ってたのお前くらいだ」



隆二はにやりと嬉しそうに笑ってから私の手の平から百二十円奪って、さっさと炭酸入りグレープジュースを買った。



「うああ……」

「早くしろ百合」

「ちょっと待ってよバナナ茶無いんだもん。くっそ、どれにすれば……」



隆二に急かされながら多分そこで三分は迷ってたと思う。



後ろからあの穏やかな声が聞こえた。



「どうしたんですか?」

「あ」



斉藤さんだ。ゴミ出しの日以来。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る