メンシプ雑談

(略)


「次の話題に移ります」

「はい」

「これは皆さんお待ちかねですよね」

「廃村ね」

「はやいって。先日、公開しました動画、死者の棲む村」

「いやー、改めて見たけどさ。怖いねー」

「いや僕もね、プレミア公開で見てたんだけど。編集の時にも気づかなかった部分も気づいちゃったりしてさ。あ、ここからはネタバレ含みますんで、まだ見ていない方は『死者の棲む村』をご覧になってから、お願いします」

「お願いします」

「……でね。チャット追いかけてるとさ、本当に、すごい数の人が『あ、ここに視えます』『こっちにもいます』みたいな感じでさ。すごいのよ」

「うんうん」

「まあね、正直ほとんどシミュラクラよ」

「良いの? そんなん言って」

「もちろん全部とは言わないよ。でもさ、僕も編集しててね、カットしたところも含めて、シミュラクラ現象にしてもこんなにあるか!? って感じでさ」

「ちなみに俺は32カ所見つけました」

「もう間違い探しみたいになっちゃってんじゃん」

「あ、コメントと言えばさ」

「コメント? あ、わかった。はいはいはい」

「言っていい?」

「どうぞ」

「なんかさ、チャットじゃなくて配信後についたコメントの方にさ。『うちのおじいちゃんだ』とかさ『おばあちゃんだ』みたいなの多くなかった?」

「あれね。僕も気になったんだよね。まあ何人かはさ、悪いノリみたいので書いたとは思うのよ」

「まあまあまあ」

「でも、ね。なんかさ、いくつかはマジっぽくなかった? これはもう完全に感覚的なやつなんだけど」

「わかる」

「確かにあれだけ顔っぽいのがたくさん視えたらさ、そりゃ知り合いに似てる顔がひとつくらいあってもおかしくないかな、とは思うのよ。実際、キクチさんに似た顔もあったしね」

「あった! あれさあ、たぶん遠征来たくてさ、来ちゃったんだろうね」

「生霊がね。それは冗談として、えと、なんだっけ?」

「おじいちゃんおばあちゃんね」

「そう。ちょっとね、気になりますね」

「差し支えなければさ。その、連絡欲しいよね」

「なんて?」

「ほら、そのおじいちゃんおばあちゃんの写真とさ、何分何秒のところの顔が似てます、みたいな」

「あー、なるほどね。写真も送ってもらってね」

「そうそう」

「それいいね。もし聞いていらしたら是非、ご連絡ください」

「よろしくお願いします」

「あとさ、話していい?」

「どうぞ」

「あの祠、何だったんだろうね」

「あれはわかんないねえ」

「あれさ、井戸の上にあったじゃん?」

「うんうん」

「調べたんだけどさ、井戸の隣とかに祠が建ってることはけっこうあるっぽいんだよね。でもさ、あの、封印? 封印した井戸の上にっていうのはさ、僕ちょっと見つけられなくて」

「でもあれさ、祠だとしても、中空っぽじゃん?」

「そうだね。近くになんかね、お地蔵さんとか倒れてないか探したけど無かったよね」

「うん。だからそこも気になるよね」

「儀式的なものなのか。単純に、ご本尊、ご本尊っていうのかな? ご本尊は別のところに移して、空っぽになった祠はフタの重しにした、ってだけなのか」

「それもあるかな、とは思うよね。あれだけキレイに何も残ってないとね」

「新聞紙一枚落ちてなかったもんね」

「ね。普通はさ、何かちょっとくらいはね、生活を感じさせるようなものが落ちてるけどね」

「だからさ、もうあそこはさ、完全にその、生きているものの痕跡がない場所というかさ」

「まさに死者が棲む村なわけね」

「きた、タイトル回収」

「臭いもヤバかったよね」

「すごい臭かった。廃虚、その、朽ちた建物の黴臭さとかもしんどいけどさ。ああいう、何ていうの」

「腐敗臭?」

「こう、生々しい臭いだよね。だってさ、もう確実に何かがね、その、近くでお亡くなりになってるわけじゃない」

「でも探しても何にもなかったよね。動物のとかも」

「臭いの出どころわかんないの怖いよね」

「うん、怖かった。え? なんで? って」

「幽霊ってさ、現れるとき、腐ったような臭いがするとかも言うじゃん」

「あー、確かに聞くね、そういう話」

「だから、その、何かが近くで死んでるとかじゃなくてさ」

「えっ、あ、幽霊の臭いってこと?」

「その可能性あるかなって」

「うわー、ちょっ、鳥肌。ヤバいねそれ。え、だってさ、めちゃくちゃ臭いしたよね」

「だからめちゃくちゃいたんじゃないですかね」

「これ、ちょっとあれだね。再調査」

「タクミさんの単独宿泊──」

「いやいやいや、単独は危ないでしょ。野生動物とかさ、危ないよ。廃虚とかなら良いけどさ」

「廃虚は良いんですね」

「うん? おうおうおう、まあね、廃虚はね。やってるしね、実際」

「そろそろ視聴者の皆さんもタクミさんの単独クレイジー実証が見たいんじゃないですかね?」

「いやー、でもあの山の中に一人は怖いなあ。イノシシとかさあ」

「タクミさんは幽霊よりイノシシが怖いんですね」

「いや、だって、怖くない? イノシシ」

「今度イノシシ企画やります?」

「なにイノシシ企画って」


(略)

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