めぶき
ゆぐ
めぶき
大粒の雪が、ゆらゆらと落ちてくる。肺から出てくる二酸化炭素は白濁としている。コートで全身を覆い尽くす男。身を縮こませ、寒さに耐えながら、いつもよりも、やや早くは歩いている。
同窓会。僕は仕事を終え、途中から参加する予定だった。ホテルの一室を借りて、バイキング形式で、同級生との再会に笑みをこぼす。学生時代に、「行くわけねえだろ」と、強がっていた自分が恥ずかしい。ホテルに入ると、外との寒暖差に思わず息が漏れた。
ロービーを通り、長い廊下を歩いていると、僕は、前から来る幼馴染の同級生に気づいた。彼女は、あの頃と変わらない明るさで、大人の落ち着きが加えられ、大人の女性になっていた。目が合い、相手も自分の存在に気づき、笑顔で近寄ってきた。
「ひさしぶりー」
「ひさしぶり」
「いま来たところ?」
「うん」
「そっかー。私今から帰るところなんだよね」
「そうなんだ」
久しぶりの再会に、ぎこちなさを感じた。
彼女とは家が隣同士で、生まれてから幼小中高大、ずっと一緒だった。彼女は明るくて、外で遊ぶ活発な女の子だった。僕は内気な性格で、家で1人で遊んでいる方が楽な方の子だったが、彼女が毎日家に押しかけてくるせいで、自然と外で遊ぶようになった。
中学生になると、小学生とは違い、男子と女子で分かれて学校生活を送るようになり、一緒に帰る回数も減っていった。
ある日、偶然彼女と一緒に帰ることになった。その時に感じた違和感。胸ぐらが熱く感じた。それが恋心だとは、気づかなかった。いや、彼女に恋をしている、と思いたくなかったのかもしれない。その日から、彼女のことを意識するようになり、日に日に、彼女と一緒にいたいという気持ちが増殖していった。
それでも、告白することは一度もなかった。明確な理由は、今でも分からない。小っ恥ずかしさもあったかもしれないし、いつも近くにいて、近すぎる存在だったからなのかもしれない。今までのあの関係が良かったかという理由もある。告白した時に、彼女との関係性が壊れるのではないかという怖さもあった。
時間だけが過ぎていき、大学を卒業した。それぞれ別々の会社に就職し、僕は仕事の都合上、引っ越すことになった。初めて離れ離れになった。毎日が仕事で埋め尽くされ、彼女のことは、次第に忘れていった。そして今、5年越しに彼女と再会した。
彼女の左薬指には、指輪があった。しかもよく見たら、彼女の右手薬指にも、左と同じ指輪がはめていた。僕は、彼女が結婚したおろか、彼女の夫が死んだことも知らなかった。なぜ教えてくれなかったのかという気持ちもあったが、しばらく会わないうちに、僕の知っている彼女は変わっていた。当たり前の事だが、僕は圧倒されていた。
「じゃあ、またね。同窓会、楽しんできてね」
「うん。またね」
何事もなかったかのように、彼女は去っていった。彼女の後ろ姿には、あの頃には感じなかった冷たさみたいなものが感じ取れた。去り際に見せた彼女の顔を見て、ほっとけられなくなった。久しぶりに会えたのに、彼女がまた、どこか遠くに行ってしまいそうで、胸が締め付けられた。何かしなければという、焦りの気持ちに駆られた。
「あのさ」
何の考えもなしに、口だけが動いた。
「一緒に帰ってもいい?」
「え……でも……」
「仕事入ちゃって」
嘘をついた。
「そう、なんだ」
彼女は微笑んだ。
「じゃあ、行こっ」
彼女はそう答え、僕は彼女に追いつこうと、強く地面を蹴った。
─完─
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