家事手伝いの時間無双〜僕らの隠れ家ダンジョン

白石とな

第一章 例えば水

第1話 異世界ドリマナールにご招待

私の名前は関谷莉緒せきやりお20歳。

無職。いわゆる引きこもりというやつである。

母親は高校生の頃に出て行った。

現在父親は関谷豊せきやゆたかと二人暮らしをしている。

趣味は懸賞応募と、ネットサーフィンとゲーム。


私は人見知りが激しい。仲良くなった人には面白い人とか言われるんだけど、自分は一人が好きだし、人に気を遣うのもしんどくてあまり積極的に友達を作ろうとは思わなかった。

だから会社でのセクハラも誰にも相談できなかったのだ。と言っても毎日執拗に誘われたりはしたけれど、ちょっと肩を抱かれたり手を握られたぐらいで、別に事件に遭った訳ではない。

ないのだけど、ずっと誘いを断り続けていたら、ちくちく嫌味を言われる様になり、上司に嫌われ友達が居ない私は、同僚からも「こいつはこき使っていい存在」と認識されたのかどんどん雑用が回って来る。


私は仕事が遅いらしい。そして仕事ができないらしい。ミスが多いらしい。雑用ぐらいしかできないらしい。

そう言われ続けていた。

ただでさえ仕事が遅いのに雑用が回ってくるのだ。


それで一人で残業をする事も多く、そしたら係長がやってくるのだ、私のデスクへ。

会社は防犯カメラもあるし、社内で無体を働かれる訳ではないが、手伝ってあげるからこの後飲みに行こうと執拗に誘われる。

逃げ場が無い状態でずっと誘われ続けるというのは堪えるものだ。


毎日遅くまで残業し、帰ってきては荒れている私を見かねて、相談してくれと父親は言ったけどそんな事言える?インターネットで調べてももっと酷い事案しか出てこないし、きっと私が大げさに捉えているだけなんだって思って。男性にはきっと分からないし、もしも甘えとか言われたら立ち直れる自信がなかったのだ。


で、嫌気がさして半年前に会社をやめた。


やめてみたは良いけど、次何をする気も起きない。

失業保険ももう無い。貯金は残業をして使う暇もなかったからまだ少しある。

なんせ引きこもりだから使う用事が消耗品のみなのだ。

化粧はしない、服は買わない。美容院は行かないし、シャンプーもリンスも家のを使う。ご飯は父が総菜を買ってきてくれるし、動かないからそんな食べない。

間食はしないし、ゲームは無課金勢だ。微課金すらしない。そこは拘りがあるのだ。なんせ時間がある。金を使いたくなければその分時間を費やせば良いのだ。ちなみに課金して時間も費やすのが一番強くなるのは言うまでもない。


スマホが鳴る。

「ああ、イベントの時間か」

と手に取るが、ポップアップがど真ん中に。


『当選しました。異世界ドリマナールにご招待 異世界アプリと転移特典 全魔法適正 アプリ内機能 』


「はあ?閉じるボタンどこよ。」

私は電源を落とす。そしてもう一度電源を入れた。

「良かった。何とかなった。」

そして、いつものアプリを起動させようとタップしたら、そこに先程のポップアップが出てダウンロードが始まった。しかも他の操作ができない。

「うわ!最悪!!イベント間に合わないし!」


仕方ないのでスマホをポケットに入れてパソコンを起動。人間諦めが肝心なのだ。だというのにパソコンの画面にはポップアップが。


『スマホ側でアプリを開いてください』


「はあ?!え、怖いんだけど!!」

スマホを見ると、ホーム画面ではなくて、全画面の真ん中に、アプリを開きますか?の文字。そこにはOKボタンしか無い。

「ありえないでしょ。」

電源を切ろうとするも切れない。

途方に暮れていると、なんとカウントダウンが始まった。

60とか10とかでは無い。


3…2…1…


私は何もない白い空間に居た。

「まじか。異世界来ちゃったやつか。」


手の中のスマホを見る。

『魔力が充填されました。安全の為使用者制限をかけます。タッチして魔力を登録して下さい。』

タッチどころか持っている手が既に画面に触れている。

『関屋莉緒 登録されました。一定距離離れると使用者に戻ります。マップ機能が実装されました。チュートリアルイベントが開始されます。』


まじか。いきなりか。

『属性魔法の習得 火 水 土 風  報酬 身体強化』


「え?ノーヒント?意味が分からないよ。」

私はスマホを見る。

「どうやって覚えるのよ。属性魔法」

『映像作品を参考にするとイメージしやすいです。』

おお。検索機能付き。ていうかえらいアバウトな魔法だな。

「んじゃ、ウォーター…例えば水!」

我ながらローカルなネタを言ってしまった。

地元スポーツクラブのCMなのだが、親世代のもので私は多分当時まだ生まれてはいない。今はネットでしか見る事ができないが、同世代が集まる時、たまに飲みながら突然言って笑ったりするよく分からないが地元お約束ネタの様なものらしい。全国規模で言えばいわばピアノ売ってちょうだいやむっしっしーみたいなものだと私は認識している。


それで目の前に現れたのはなんとプールである。いやまてまて。私はそのCMは知らないのだ。おかしいだろ何これ意味が分からない。創造魔法か?!なんぞこれ!!


『水 土魔法を習得しました』


まてーーーーい!!それはさすがにおかしかろ!?


落ち着け。落ち着くんだ。変なものは想像してはいけない。

改めまして。

「えーと、じゃあ、た、種火」

指先にほんの小さな火をイメージ。よかった、火事にならなそう。私は火を消す。お次は風だ。

風って攻撃魔法のイメージが強いんだよな~。ウインドカッターとか…

と思うだけで目の前にウインドカッターが出て飛んで行った。

いや危ないわ!!

『チュートリアル終了 報酬 身体強化』

「念じるだけで魔法が発動したら危ないんだけど何とかならない?ぶっちゃけ単語で発動するのすら危ない。明確に魔法を発動するサインが無ければ発動しない様にしてよ。」


『発動条件を設定してください』

私はスマホに入力する。

イメージして、明確に魔法を発動すると念じ発動と唱える事。発動の意思がない時に、想像しただけでは決して発動しないこと。

設定が終わると、地球に帰還しますかの文字。

いつでも帰れるの?と念じると帰れるとの返答。ではもちろんNO一択だ。

次に身体強化の練習である。

別に力加減が難しいとかではなく、自由自在だった。普通に走れるし、歩けるし、ジャンプしたり、早くも高くもできた。

身体強化の意思が無い時は発動しないことと設定。


それから、土魔法で宝石作れないかなーとかやったけど無理だった。

今日はここまでにして地球に帰還すんべ。


帰ってきたら部屋でした。

なんと、長時間居たのに時間が経っていないのだ。

スマホを見ると通知が光っている。

『イベント 洗濯物を干しましょう。

本日は快晴です。花粉も黄砂も無し。お洗濯日和ですよ!』

「なんじゃそりゃ!!」


私は洗濯場に行くと、洗濯機の中でしわくちゃになった洗濯物が。

「パパン干し忘れ。どうするかなあ。洗いなおす方が楽だけどまぁ良いか。後でアイロンすべ。」

私はベランダに出て物干し竿にどんどんかけていき、パンパン叩きまくる。

「洗濯とか楽勝じゃん。私暇なのに毎日何やってたんだろ。もう学生じゃないんだからいつまでも子供気分じゃダメじゃん。このぐらいだったら毎日やろ。うーんいいお天気。」


干し終わってからスマホを見ると完了の文字

『報酬 生活魔法クリーン 洗濯物に向かって使ってみましょう』


「クリーン発動」

一瞬で洗濯物が乾き、しわも伸びたんですけど干した意味…。


私は今干したばかりの洗濯物を取り入れて畳んでしまった。

ふと見るとテレビの上にほこりが。

「私MPどのぐらいあるの?てか魔法どんだけ使える?」

『HP8000 MP∞』

え、ちょ、一般人が分からないんですけど。

『明日の地球版イベントで鑑定を覚えましょう』

おおおおお!!!!鑑定きたこれー!!!!!


とりあえずテレビの上はクリーンしたけどMP減らなかった。無限だからね。とにかくスッキリしたくてお風呂場に行って黒くなった壁や床、天井に向かってクリーンを使うとめっちゃきれいに。

鏡の前に行き、自分の顔や体、歯にもクリーンする!

「おおおおお!!肌が一段明るくなった!!歯が白ーーい!!」


私は自分のクローゼットを開けた。

ジャージじゃない服を久々に着たくなったのだ。

ダニとかほこりとか嫌なので片っ端からクリーンである。

お気に入りのスカートを履いてみる。

「入らないじゃん…」

フリマに出したいけど外に出なくちゃいけなくなるのが嫌すぎる。

「あった!Mサイズ!良かった。」

とりあえずウニシロで全色買いした家着用のゆったりしたワンピースを着たさ。今日はパステルグリーン。


「ただいま~。ご飯部屋の前に置いとくよ。」

「今日キッチンで食べる。」

「おお!久しぶりだね!一緒に食べよう。」

「お風呂入れてあるから先に入りなよ。お茶とか用意しとく。」


ドアを開けると父が、泣いていた。


「ええ。なんで?」


『先取りイベント 先にお風呂?それともご飯? 関屋豊好感度アップ 掃除技能』

ちょっと親相手にそのタイトルはやめてwww

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