第4話

 ダンジョンは二つに分類することができる。

 一つはジョブを獲得するために入ったダンジョンのように、パーティーごとにダンジョンが割り当てられるタイプ。前世で言うとMMOとかであったインスタンスダンジョンに近いかな。

 これだと基本モンスターの取り合いにはならないからゆっくり戦えるが、ピンチの時に他のパーティーに助けてもらうことができない。それに出てくるモンスターも偏っている。例えばスライム系ならポイズンスライムやパラライズスライムの、スライム系統のモンスターしか出てこない。


 二つ目が何十という階層に分かれていて、それぞれの階層ごとにボスがいる通称大迷宮。こちらは基本的に出てくるモンスターはフィールドの特徴に沿っていて、森や草原ならウルフやゴブリン、火山なら火属性のモンスターが出やすくなっている。

 もちろん階層に沿わないモンスター、イレギュラーモンスターも出てくる。基本的にイレギュラーモンスターはその階層に出てくるモンスターより一回り以上強い。過去の文献によれば、凍土の階層環境を墓地に塗り替えたという報告もある。そんな通常のモンスターからは考えられない力を持つのが、イレギュラーモンスターだ。


 そして私たちが向かっているダンジョンは前者で、ゴブリン系統のモンスターがいる『小鬼の森林』だ。


「それじゃあおさらいだけど、今日の目的は『小鬼の森林』で普通のゴブリン相手に実践を経験することよ」


 花音ちゃんが言っている通り、ゴブリンを相手に実践をする。それも生物と人型の命を奪うという二つの難関を一緒にだ。

 というのもほとんどいないが、稀に生物を殺せない人や人型を殺せない人がいる。今回は自分がそういうタイプではないかという確認だ。普通だったら別々に分けて確認するが、私たちの場合人型の方が戦いやすいと考えてこうした。


「それにしても面倒だよねぇ」

「仕方ないじゃない。昔特定のモンスターを殺せなくてパーティーが崩壊したとか合ったんだから」

「わかってるよー」


 そんなわけで基本的に弱いモンスターでちゃんと殺せるかの確認をすることが基本になっている。


「それといくら順調に進んでも、今日は奥に行くのはダメだからね」

「流石に上位種の群れを相手に勝てると思うほど驕ってないよ。1対1なら勝てるけど」


 このダンジョンは浅いところだと棍棒を持った普通のゴブリンだが、奥に進んでいくと上位種の小鬼の剣士ゴブリン・ソードマン小鬼の盾ゴブリン・シールダーが出てくる。しかも群れを組むので、普通のゴブリンから難易度は跳ね上がる。


「はいはい、それじゃあ行くわよ」

「おー!」


 そう掛け声を出しつつ(花音ちゃんはしなかったけど)『小鬼の森林』ダンジョンに入って辺りを見回した。

 森林とはいうものの浅いところは、まばらに木が生えている程度で見通しはいい。それにこれなら長物以外を振ることができるから大丈夫だ。

 確認が終わったので花音ちゃんに声をかける。


「どう、大丈夫そう?」

「ええ、これくらい木の間が空いていれば剣を振るうことは大丈夫そうね」

「私の方は長物系は難しそうだから、剣とか斧になるかな。それと予定通り弓がいいかも」

「そうね、考えてた通り最初の方は弓で援護をお願い」

「了解」


 とりあえずこの地形を見て思ったことを話し合う。こういうのはちゃんと言葉にして言い合うことが大事だ。そうして『小鬼の森林』を進んでいく。


「上位種が出てくる層は目に見えてわかるらしいよね」

「そうらしいけど、念のため気を付けておきましょう」


 そんなことを話しつつ進んでいると、グギャグギャという声が聞こえた。ゴブリンの鳴き声だ。

 顔を見合って頷きあうと、花音ちゃんが正面から姿を現す。声的に1匹だから姿を現して注意を引き付ける。その間に私は離れすぎない位置で射線を確保する。

 そしてゴブリンが獲物を視認したから、騒がしく声を上げながら突っ込んできた。それじゃあ援護しますか。


「シッ!」


 弓と矢を魔法武器顕現で作り出して、ゴブリンの太もも辺りに目がけて矢を射る。普通の弓矢と違って、魔力で作り出したからか減衰せずに真っすぐ飛んでいく。最初試し打ちしたときは偏差を意識してて外したのを思い出す。

 もちろん今回はしっかりと弾道を理解しているから外すことはなく、ゴブリンの太ももに矢が突き刺さった。


「ギャアッ!!!」


 しかも走っている途中に喰らったせいか転んでしまい、ちょうど花音ちゃんの前で止まった。そしてそのまま一刀の元に切り伏せた。


「お疲れ様、大丈夫そうだね」


 そう声をかけつつ、忌避感がないかよく見る。


「ええ、大丈夫よ。それにしてもなんというか……」

「初めての実践がこんな感じになって複雑?」

「そうね」


 とりあえず大丈夫そうだが、別の意味で大丈夫ではない。まあ私もいざ実践だ! て気合を入れて臨んで、呆気ないとなったらなんかモヤモヤするだそうし。


「まあ最初は安全重視にするってなったらこんなものでしょ?」

「ふー、そうね。よし! 次行くわよ!」


 しっかり切り替えられたのか問題なさそう。


「それじゃあ次は私の番だね」


 弓を魔力に還して、剣を作り出してからゴブリンを探す。その後すぐに見つけてゴブリンを斬ったが、特に何とも思わなかった。

 その後もゴブリンを探しては戦ったが弱かった。弓矢の先制攻撃で頭に刺さって終わりが多く、花音ちゃんにも回したがすぐに決着がついた。


「とりあえず何回も戦って大丈夫だってわかったけど、どうする? 別れて探索する?」

「確かに思った以上に弱いわね。これなら別れてもよさそうだし、一緒にいても効率が悪いわ」


 同じことを思っていたのか、すんなりと決まった。余裕だと思っていたが、まさかここまで差があるとは思わなかったのが正直な感想だ。

 一先ず集合時間になったらダンジョンから出るのだけは決めて、別々に行動を始めた。さて何匹狩れるかな。

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