第31話 膝枕


「シュウジ君ッ、シュウジ君! 目を開けてください、シュウジ君!!」

「…………」



 ああ、ここは天国か。


 小鳥遊先輩によく似た天使が、膝枕をしてくれているなんて天国に決まっている。あれだけ魔獣を殺しまくった俺が天国に行けるなんて思ってもみなかったが……。



「もぅ! 目を覚ましたと思ったら何を寝ぼけているんですかっ! 貴方はちゃんと生きています。私(わたくし)を守り抜いた貴方は此処に居る! 死んでなんかいませんっ」



 ぼーっとしていたら頬を叩かれた。やたら痛い。どうやら本当に俺は生き延びれたようだ。上半身の服が焼かれて裸にはなっているが、レベル1の火傷程度ですんだらしい。


 いや元はもっとひどい火傷だったのかもしれないが、チャクラによる回復があったのかもだ。保護と回復にと、本当にチャクラには頭が上がらない。


 ――で、そこまで頭が回ってようやく敵の事に思い当たった。ウルズ達はどうなったんだ!?



「先輩、アイツらは……」

「貴方に重傷を負わせた後、この場を立ち去りました。目的は果たした、比翼の鳥の逆鱗に触れるほど我らは愚かではないと言って……」



 比翼の鳥か……俺と小鳥遊先輩を指しての事だと思うが、中々に嬉しいことを言ってくれる。そして瀕死の俺を庇ってくれた先輩に感謝を。



「なにを、何を言っているのですか! 庇われたのは私(わたくし)の方です。貴方なら私を放って逃げる事もできたでしょうに、なぜこんな無茶を!?」

「そりゃあ比翼の鳥の片割れですから……片方が欠ける選択肢何て取り様がないでしょうよ。それが――大事なヒトなら猶更です」

「……もう、ずるいですよシュウジ君、そんな事を言われたら黙るしかないじゃないですか」



 流石にこの場で惚れた女――云々を語るつもりはない。それは確かに吊り橋効果的で有効かもしれないが、フェアではない気がするのだ。惚れた女には真正面から告白して返事を受け取りたい。それが最低限の礼儀だと俺は考えている。


 けれど……今はこの膝枕と言う状況を存分に堪能したい。なにせ、母親にしてもらったのが何年前か分からない位の昔の出来事だ。この先の人生で、して貰えることがあるか分からないからなぁ。



「小鳥遊先輩の膝枕は最高ですね」

「もう、甘えん坊ですね、シュウジ君は……仕方がないですね。この魔獣の森が消滅するまでこのままで居させてあげます。大サービスなんですからね?」

「……ありがとうございます」



 『鵺』という核を失ったことにより、急速に枯れて行く黒い森を見ながら、束の間の休息を得るべく、俺は小鳥遊先輩の膝の上で目を閉じた。




---




 さて、その後はどうなったかと言うと、俺は病院に直行。


 小鳥遊先輩は魔獣の森を消した者として、そして、ウルズ達と戦闘を行った者として事情聴取を受ける身となった。


 それだったら俺も、と手を挙げたが、ケガ人は大人しく病院で寝ていろと言われ、大島の監視付きで入院と相成った。とは言ってもチャクラによる回復力は凄まじく、1日で退院となったが。



「いやー、みるみる回復していく様は、見ていて凄く面白かったですよ」



 とは、大島の談である。


 回復したからには事情聴取に参加せねばならぬと治安部に舞い戻ったが、1日で大体の事は小鳥遊先輩が話しており、俺はその補足だけで済んだ。


 こうなってくると流石に小鳥遊先輩に悪い気がしたので、コンビニスィーツでご機嫌を取ったら偉く喜ばれた。ポップアップに「GODSコミュニケーション!」の文字が出た時は目を疑ったが……まぁ、結果オーライと受け取っておこう。



 それで、今後の予定であるが……とりあえず、魔獣の森を消すことは継続で、ウルズ達の件については一旦保留となった。


 魔獣核を喰らえば食らうほど強くなっていく魔人。そんな彼女らにどうやって対抗するのか、上の方で対策会議が開かれているらしい。


 数日後に降りて来た、その対策会議の結果を端的に言えばだ、


 放っておけばアインヘリヤルを作り出す彼女らは明確な人類の敵判定を受け、指名手配が成された。少なくともコレで補給などの表立った行動はかなり制限されるハズである。


 また、実際の対処としては、俺と小鳥遊先輩に任される事になった。どうやら俺たち以上に戦闘力が高い能力者はいないらしく、俺達でどうにかしろとのお達しだ。


 無茶ばかり言うなぁ、とは思ったものの、東堂教官に頭を下げられたら俺達としては黙って言う事を聞くしかない。さらなる戦闘訓練を行いつつ、その時に備える事となった。



 で、あるからして――秘密裏にスクルドと名乗る女が俺たち治安部に接触してきたときは、どうしたモノかと対応に頭を悩ませることになった。

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