第28話 魔獣の森


「さて、作戦決行に際して誰が前で後ろかという隊列の問題がありますが……」

「不慮の事態を考えるとチャクラで防御力の高い俺が前ですね、小鳥遊先輩は俺の後ろからついてきてください」

「私も神魔刀で魔獣を斬りまくることを期待していたのですが……しょうがないですね、疲れたらいつでも交代しますからちゃんと声を掛けてくださいね」

「了解です」

「とりあえず、魔獣の数は500匹未満と言ったところです。小鳥遊センパイとシュウジセンパイなら、狩り尽くせる個体数だと思いますが油断は禁物です。結局のところ、魔獣はどのように増えているか分からない状況ですので」



 今、俺達は小規模な魔獣の森を前にして最終チェックをしていた。時刻は11:30で、もう少し経てば突入というタイミングである。


 これから突入する魔獣の森は直径2kmと、確認できる中では最も小さく、そして最も多くの調査が行われ、沢山のヒトの血を吸ってきたと言う森である。


 俺達が普段、魔獣の間引きを行ってきた森と比べて小規模であるが油断は出来ない。この森も結局は中心部に立ち入る事が出来なかった『人食いの森』なのだ。



「準備はいいか、小鳥遊、進堂……教官として私はお前たちを保護する義務がある。しかし、同時に上司として送り出さなければならない責務もある。だから言う事は一つだ。必ず帰ってこい!」

『はい!』



 東堂教官の激励を得て、気合が入った俺達は最後に拳を打ち付け合って、魔獣の森の中心部へ向かう事となった。



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 魔獣の森の中は、当然であるが魔獣のテリトリーだ。


 俺達という異物が森に立ち入った事は確実に把握されていると考えた方が良い。だから、森に入った途端、魔獣が我先にと襲ってきた。


 イノシシ、オオカミ、ヘビ、サル、その他の小動物も全てが敵だ。そいつらが雪崩のように群れを成して襲い掛かって来るが、全てを相手にしてはいられない。俺達の仕事はあくまでこの森の中心部に何があるかを暴き、可能であれば魔獣の森の『核』を打ち破る――消滅させる事なのだ。



「シュウジ君!」

「ええ、分かっています!」



 だから俺達は進路上の魔獣を撃退しながら走り続ける。


 いわば障害物に手を出して構わない障害物レースだと思えばいい、問題はその『障害物』が意思を以って襲ってくること、そして必殺の一撃を備えていることである。


 襲い掛かって来る牙に真正面から正拳突きを叩き込み、突き立てようとする爪を手刀で薙ぎ払う。目の前に立ち塞がる体を一本拳で破壊し、投げつけて来る石は肘で打ち返す。


 常人なら一発で体をオシャカにされるだろうそれらを、俺のチャクラで保護された体は平気の平左で打ち払う。そして偶に捌き切れないヤツラの攻撃は、後ろにいる小鳥遊先輩が斬り刻んでくれた。


 俺達の連携は毎週の実戦を経てほぼ完璧に近づいたと考えて貰って良い。


 お互いがお互いの癖を知り、弱点を補い合う。それどころか、こうしたらもっと良くなるという動きを提案し、それを実行に移し徐々にレベルを上げて行った。


 まるで二人で無敵になった気分――出来るなら小鳥遊先輩とずっと戦い続けたいと思ったことが何度あったことか。


 ともあれ俺達は連携を重ねながら、約1kmという距離を全力で走り抜けた。



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 魔獣の森、その中心部は直径50mほどの広場となっていた。そして、その中心に居たのは、『鵺(ヌエ)』と呼ぶに相応しい、悍ましくも美しい合成獣(キマイラ)だった。


 サルの頭、オオカミの手足、イノシシの体、尻尾に至っては蛇になっている。


 そいつは今、明らかに困惑していた。なぜ、こんなところに人間が居るのかと、この森を守っていた魔獣たちは何をやっているのかと。


 安心して欲しい。


 この森を守っていた魔獣たちは自分の役割をちゃんと果たしていた。この場所に俺達がいるのは、俺達の力がお前たちを上回っていた、ただそれだけだ。


 『鵺(ヌエ)』との決着は一瞬だった。


 小鳥遊先輩の神魔刀による一薙ぎ。それによって縦一文字に切断された体からは一際大きな魔獣核が露出し――それを俺の渾身の力を込めた正拳突きが、木っ端微塵に打ち砕いた。



「あっ、ずるいですよシュウジ君!」

「こういうのは早い者勝ちと決まっています。次があったら譲りますよ」

「絶対に、ですからね!?」



 そう言ってお互いに笑い合う俺達であったが、そこからの変化は劇的だった。


 なんと、黒く染まっていた木々や葉っぱが急速に枯れ果て、その後は乾いて砕けて黒い砂となり、それも風に吹き飛ばされて消えていく。それがこの中心部から外縁部に向けて起こり……後にはただ直径2kmの広大な広場が残された。


 そうなると当然、外縁部の外に居た大島、東堂教官、栗田さん、バックアップの為にいた自衛隊の皆さんに、魔獣の森消滅を成し遂げた俺達の姿が見える訳で……一瞬の静寂の後、怒号のような歓声が響き渡った。


 そして、またいつものポップアップが出現する。



『コングラチュレーション! この星で最初となる黒き森の消滅を確認しました。実行ボーナスとして、アナハタ(胸のチャクラ)を解放します』



 そんな表示に、ああやっぱりなと、ある思いが確信に変わっていくのを感じながら――駆け寄って来る皆に、俺は大きく手を振ったのだった。


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