第24話 会話

 

 そういえば、凄く腹が減っていることに気付いた。どうやら遠当ては凄まじくエネルギーを消耗するようだ。さっきから胃が凄い音を鳴らしている。それはどうも小鳥遊先輩も同じようで地獄の底から響くような音を鳴らせて顔を赤くしている。


 この分だとちょっと買い出ししてから料理というのは間に合わないと思ったので、東堂教官に学食での食事許可を貰う事にした。昼間は学生も利用できるのだが、夕方は基本、教官達しか利用不可となっており、特別に許可を得た時にしか利用できなくなっているのだ。


 現在の時刻は17時頃で、食堂が開き始める時刻だった。



「しかたねぇなあ。そんな腹の音を聞かされちゃあ許可を出さずにはいられないか。面白い技を見せて貰ったしな、私の名を出していいからとっとと食堂に行ってこい」



 そんな東堂教官の暖かい言葉を貰った俺と小鳥遊先輩は、頷き合うとダッシュで食堂に向かった。



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 しかし、食堂で食べられる量は基本一人前である。食べ盛りの男子としては到底量が足りない。そんなワケで治安部寮へ帰ってからも冷蔵庫すべての食材を食い漁り、それでも足りなかったので買い出しに出かけた。


 小鳥遊先輩も買い出しに出掛けたく見えたが、「ここで我慢するのが女の子なのです!」と、引きつった笑顔を浮かべていた。あとでカロリー●イトでも差し入れてあげた方が良いかもしれない。もしかしたら好感度が上昇するかもだ。


 ああ、因みに俺のミッションカウンターは正常に稼働している。次の『アナハタ(胸のチャクラ)』の解放までは100,000,000回のミッションクリアが条件で、コレはもう到底現実的な数値ではない。G機能が無ければ百回転生できたとしても到達届かない領域だ。いや、G機能があっても到底辿り着ける領域ではない。


 だから、現在のマニプラ(鳩尾のチャクラ)が、俺の才能限界なのかなと勝手に思っている。


 まぁそれでも格闘家として誰もが目指す究極目標である「遠当て」に覚醒出来ているのだから、なにも文句は言えない。言えるはずもない。チャクラ様様である。


 それに今は、開いたチャクラの力に振り回されている状態であり、使いこなすターンだと思っている。


 先にも述べたが俺の戦い方は最初に開いたムーラダーラ(会陰のチャクラ)の頃から変わっていない。幼い頃に習い得た空手の技をベースに戦っており、それが間違いだとは思ってはいないが、正解だとも思ってはいない。


 例えば「遠当て」が出来るなんて、小鳥遊先輩に言われなかったら試す事さえしなかっただろう。だから一旦は空手の事は忘れて漫画に載っているような技を色々と試してみるつもりだ。その想像がが今は楽しくて楽しくてしようがない。自分が何処まで強くなれるのかを想像するだけで、勝手に体が疼いて来る。


 しかし増長は禁物である。


 あのウルズ、ベルザンディ、スクルドの3人には手痛い思いをさせられた。正直、彼女らの魔法としか思えない力に対抗するために、どれだけ力を付ければいいか分からない状況だ。焦らず確実に一歩ずつ歩んでいくのが肝要だと俺の感は告げている。


 さて、そんな事を考えている内にスーパーに辿り着いた。


 学食ではとんかつ定食を食べたが、俺の腹は圧倒的に肉が足りていない。筋細胞が動物性タンパク質を求めている。


 この際、肉だけのすき焼きもありだなと思いながら、店の自動ドアをくぐると……そこに信じられないモノを見た。


 なんと、ウルズと名乗った女が買い物袋を両手に、そちらも驚きに目を剥いて俺を見つめていた。



 他人の空似……じゃないよな。


 俺を病院送りにしたヤツが、一体何のつもりで近所のスーパーで買い物をしているんだ? この辺に住んでいるとでも? その食料を買う金は一体何処から? 自ら買い物をするとか、もしかして人手が足りていない? しかし理性があるのは分かっていたが、流石に迂闊すぎるんじゃないか? どうでもいいが、その主婦みたいなエプロン姿がやけに板についているな。


 ――と、そんな思考が一瞬浮かんでは消え……体が勝手に戦闘態勢に入った。全身をチャクラのオーラが覆い、正拳突きの構えを取る。



「ちょっとちょっと、お待ちなさいな。今、この場で戦うつもりは妾には無いわ。とりあえず、その物騒な物を仕舞ってくれない?」



 ……なんだそりゃ。あの時の好戦的で高圧的な態度は何処に行ったのか。


 まるで本物の主婦のように慌てる姿に気勢を削がれ、チャクラの放出を止めて正拳突きの構えも解く。


 チャクラで光っていたのは一瞬の事で、車のヘッドライトとでも勘違いしたのか、周りの人が騒ぎ出す様子は無かった。



「どういうつもりだ?」

「……その質問に答えてもいいけれど、場所を移さない? ここでは人目が多いわ。貴方も一般人に被害が出るのは本意ではないでしょう。近くに公園があるからそこで話をしましょう」



 正直、罠を疑うべきだろう。


 しかし、このタイミングはあまりに偶然に過ぎる。今の彼女から敵意は感じないし、下手に癇癪を起されて民間人に被害が出ては本末転倒だ。


 以上の事から一旦、話をするべきだと結論付けてこの場を後にした。


 さて、鬼が出るか蛇が出るか……多少、頭が混乱している中で、ウルズと名乗った女性の後に俺は続くのだった。

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