第3話 「俺と勝負しろ」

「ルシファー」、UVB:Sで有名なトップランカーの一人。


 ランキングではニナミセより平均順位は低いが。


 よくこの酒場でも話題に上がるプレイヤーの一人だった。かなりの短期間でトップランカーになった異端のプレイヤーとして有名だ。


「は──?お前がルシファー・・・?なんでここに──」


「いや、トップランカーの君たちがギルドに入っているわけでもないのに急に名前をお揃いにしているのを見て驚いてね。


 なんでなのか気になって人に聞いて回っていたところ、そこの方がここによく来るって教えてくれたんだ。」


 ルシファーは大柄赤シャツの男を指差して答える。


「──みたところ、なんとなく君たちが名前をお揃いにした理由はわかったよ。」


 その後、ルシファーはニナミセとシルルの方を向いてさらにそう言った。


「い、いやほら、別にいいじゃねえか。こいつも一緒にいたらこの酒場はさらに盛り上がりそうじゃん?


 ・・・それにコイツがデスゲーマーってのも知らなかったんだよ」


 大柄赤シャツの男は飲もうとしていた酒を吐き出しそうになると、なんとか堪えてそれを飲み込んだのち、必死に釈明する。


「で、私はデスゲーム版のUVB:Sでコイツと出会ってさぁ〜、コイツに誘われて、ここにきたってわけ。」


 さっきから後ろの机で様子を見ていた、太もも出血女も話に割って入る。この女のいう「コイツ」とはルシファーのことだ。


「───まぁ、そう言うことだ。


 違法改造ゲームはあくまでその元になったゲームが存在している。


 私はすでにスペースTERROR版UVB:Sのトップランカーだったと言うわけさ。


 君たちに接触するため、通常盤のUVB:Sも『ルシファー』というプレイヤー名で最近プレイを開始した。


 ゲーム自体は同じようなものだからランクを上げるのは苦じゃなかったよ」


 ニナミセはごくりと唾を飲み込む。


 それならばルシファーがすごい速度でトップランカーになったのも納得がいく。


「・・・てことはそっちの女の人も、スペースTERROR版のUVB:Sをプレイしている───それもトップランカーってわけですか」


「あぁその通りだ。」


「表」ではルシファーと名乗る男が、女の代わりに答える。


 女はそれを受けてニナミセに小さく手を振った。




「それじゃ一通り話は済んだことだし、君たちの答え、教えてくれないかな。


 言っておくけど、この話はくれぐれも内密にね。」


 ルシファーはチラリと大柄赤シャツの男の方を見る。


 大柄の男もそれに気づいていたようで「わかってるよ」と体をびくりとさせたのち右手を挙げながら答える。


「・・・待ってくれ肝心のギルドを結成する理由を聞いてないぞ。


 それに、UVB:Sにギルドのシステムはないはずだ。


 スペースTERROR版にはあったりするのか?」


 ニナミセはルシファーに問う。


 この男がさっきから何を考えているのかよくわからなかった。



「そう警戒しないでくれ。


 私はただ今まで一人でゲームをやっていたものだから、ともにゲームに挑む仲間が欲しくて集めているだけなんだ。


 ほら、君もたまには他の大人数で協力するゲームをやりたくなったりするだろう?


 ゲームの中だけじゃない。この酒場みたいに、仲間で集まってみたりもしたい。


 ──そう思わないかい?少なくとも私はそう思って今ギルドメンバーを集めているんだ。」


 ようやくルシファーの考えを聞くことができて、ニナミセは


 ───ようはゲーム仲間が欲しいんだな


 と理解する。



 察するに、この男は、命を賭けるというそのゲーム内容のために身近に共に遊ぶ仲間があまりいないのだろう。


 ニナミセはシルルとともにしばらく話し合うと、その話をキッパリと断った。


「ゲームに命をかけるつもりはない」と。


 第一、スペースTERRORは腐っても違法の海賊サイトだ。


 それを聞くと男は笑って「気が変わったら、いつでも渡した手紙に書いてあるコードから連絡してくれ」と言って女とともに帰っていこうとする。




 ルシファーが分厚い店の扉に手をかけた時、ニナミセは思わずルシファーたちを引き留めた。


「───ちょっと待ってください。」


「・・・?何だい。」


「お、おいニナミセ何考えてやがる。」


 赤シャツ大柄の男は「裏」の人間ともう関わりたくなかったためか、帰ろうとしたルシファーたちを引き留めたニナミセにギョッとし、小声で制止しようとする。


「・・・よかったら、お手合わせしませんか?」


「───手合わせ・・・・?」


 「えぇ。興味湧いてきたんです。


 TERRORでプレイする人たちの実力にね。」


 ニナミセは「ルシファー」ではなく、女の方を見てそう言い放つ。


 大柄赤シャツの男は面倒臭いことするなよと言わんばかりに顔を手で押さえた。


「───へぇ。いいね少年。」


 女の方も足をとめ、ニナミセの方を振り向く。


 笑みを浮かべた女とニナミセはすぐに目が合った。


 それを受けてルシファーを名乗る男も足を止め、一瞬めんどくさそうな顔を見せたが、すぐにニコリと微笑むと


「良いね。ぜひ、やってみるといいよ。」


 と言った。


「おいおい、おモチ月_678よ、やめとけって」」


 大柄赤シャツの男が再び声のボリュームを上げてニナミセを制止するが、女の方はもうポッドの方へ向かって歩き始めており、やる気満々の様子だった。


「何を心配してるんだい。


 別にどっちかが負けても死ぬわけじゃあるまいし。」


 と女は赤シャツ大柄の男の方を向きながらニナミセを庇う。


「邪魔すんなよ」


 女はポッドに向かう途中、大柄赤シャツの男の前を通りかかる際に、今までとはまるで調子の異なる低い声のトーンでボソリと赤シャツ大柄の男にだけ聞こえるように言葉を漏らす。


「ひっ」





「所詮ただのゲームだからね」


 女は今度は声の調子を戻して皆に聞こえる声でそういうと、ポッドの前に立って、ポッドを早く開けるよう目配せをした。


「・・・わ、わかりました───」


 大柄赤シャツの男はため息を吐きながら手元のリモコンを操作し、ポッドの鍵を解錠する。


「よろしく。」


 同じくポッドの前に立ったニナミセは女の方を向くと短く挨拶をした。


 女にニナミセが勝負を挑んだ理由は、さっき自分でも口にしたように、純粋にTERRORでのみ活動しているという女の実力が気になったのに加え、この変わった雰囲気を放つ女をわざわざギルドに入れようとしている「ルシファー」の理由が知りたかったからだ。


 命をかける中で、この女のような、道化じみたやつと共に行動なんてしたくないと思うのが普通のはず。



人間性を多少無視しても、この女は加入させる価値がある──ニナミセはこの女が余程の実力者であると推測した。

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