デス・ゲーマー
aozora(仮)
1~50
プロローグー1
「ああぁぁあぁぁぁっ!?嘘っウソウソっっ嘘だよなぁっ」
無慈悲に突きつけられた非情な現実をかき消すために著名配信者、「スーパー
されど声を上げただけで目の前に広がっている光景は何も変わらない。
ここは電子の世界だが、現実であることに変わりはなく、ただひたすら、彼の元に死を告げる剣撃と銃声の音が近づいてくる。
何が起きているのかよく分からなかった。
ゲームの中で痛みは走らない。
それこそ本当に夢の中の出来事であると思ったくらいだ。
夢であってほしい。
───頼む頼む頼む。
───嘘嘘だうそだ嘘だ。こんなこと、あっていいはずがないぃッ。
必死に、がむしゃらに、スーパー麺は住居の間を隙間を縫うようにして駆け続け、やがてあたりから戦闘音が聞こえなくなったところでスーパー麺はようやく足を動かすのを止めた。
辺りを見回し、息を殺しながらその場にへたり込む。
ヒビの入ったコンクリートの壁の隙間から大きな丸い月が輝いていた。
金色の瞳が、自分をギョロリと上から見下して、嘲るように月明かりを自分に落とす。
ゲームの中であるというのに、先ほどから動悸のような症状がスーパー麺には続いていた。
呼吸が荒い。
───逃れられたのか・・・?
息を切らしながらもそう思い、安堵しようと顔を上げた瞬間、彼の目の前に一発の銃声が響く。
銃弾はほおを擦り、静かに自分のわずかに残ったHPをわずかに削っていった。
先ほど自分たちを襲撃してきたプレイヤー集団の者と見られるプレイヤーが目の前にたたずみ、静かにこちらを見つめている。
プレイヤーネームを見た。
名は「ルシファー」。
ふざけた名前だ。
黒いコートにマスカレードマスク、手元に握った光線の刃が輝き、そのプレイヤーを照らしている。
名前に負けない厨二病感満載の容姿だった。
スーパー麺は辺りを見渡すとそこでようやく自分はとっくに包囲されているという絶望的な事実に気がつく。
逃れることはできなかったようだ。
このルシファーという男のギルドにしてやられた。
───ルシファー?そんなプレイヤー知らないっ・・・知らないぞっ
「裏」でそんなプレイヤーは聞いたことがない。「表」では名の知れたプレイヤーなのだろうか。
しかし、「表」のプレイヤーなど高が知れている。
自分を狙う度胸も実力も存在しないはず。
怯えるスーパー麺のアバターを見て、ルシファーの口元が歪む。
笑っていた。
気づいた時にはスーパー麺の顔面を、ルシファーの握っていた光線の刃がすでに貫いていた。
画面が暗転し、ゲームの世界が自分に「ゲームオーバー」を告げようとする中、スーパー麺は己自身の行動を振り返る。
己が利口な方であると信じていた。
このTERROR GAMEで生き残り、自由を手にするのは自分だと信じていた。
そのためにできる限りのことはしてきたつもりだったし、自分にはその実力が確かにあったはず。
他者を欺き、配信のネタにして嘲笑い、蹴落として今まで人気を拡大していった。
冷たい食事を摂ることも、明日の住居に困ることも、もう過去の話だ。
確かに命をかけてはいるが、サポート体制は盤石。
配信活動をしていく中で凄腕のゲーマーたちを周りに集め、理想の「ヤラセ体制」が完成していた。
彼らがそれとなく護衛してくれるおかげで、今回のイベントでの配信も命を落とすことはない──はずだった。
はずだったのだ。
───大金をかけて雇っていたプロのやらせ要因たちの姿が見えない。
そう気づいた時には全てが遅かった。
目の前に突如現れた謎のプレイヤー集団の一人が───ルシファーが、「すでに殺した。」などと奇襲に慌てふためく自分にそう告げた瞬間、そこでようやくスーパー麺は自分にただならぬ殺意が向けられていることに気づいた。
───配信をしていたからなのか・・・?
───いや、しかし、配信をしていなければ今の自分の地位も、今後の栄光もあり得なかった。
───そこは悪くない。自分は何も間違ったことはしていない。
理解できなかった。
そう、「プロ」のやらせ要員なのだ。
しかも信頼できる中だ。もう何度も実際に会って飯を食ってる。そして飯を食わせてる。
裏切りの文字が脳裏に浮かんだが、確かに彼らはこのゲームに参加していたし、途中離脱が叶わない中、わざわざ自分を裏切る理由が見当たらなかった。
むしろ自分が人に対して裏切らせるように仕組むような立場であったはずだ。
彼らだって命懸け。このゲームに負ければ死ぬ。途中でゲームから抜けても死ぬ。生きたければ勝ち残らなくてはならない。
つまりこいつらは自分の仲間よりも実力が高いというだけのことになる。
───なんだ。なんなのだこいつらはっ・・・一体どこから湧いてきた・・・
───俺の護衛はプロゲーマーと言っても過言でない集団のはずだった。であるならばこいつらも・・・
スーパー麺は画面が暗転していく中、視界端に表示させていたコメント欄を最期に見る。
コメント欄の動きはいつにも増して加速していた。
視聴者はこの異常事態に歓喜し、今まで見たことのない興奮具合が───「熱」が、冷たくなっていくスーパー麺にも感じ取れた。
人々はさらなる熱狂を求めている。今後このTERROR GAMEの勢いは加速していくということをスーパー麺は悟った。
もう狂気は止まらない。
雪だるまのように肥大化し、大勢の命を巻き込んで奪い去っていくだろう。
悪魔みたいなイベントだが、この様子を見てスーパー麺はイベントの成功を確信する。
───やめとけよ・・・マジで・・・・・・・
これからスーパー麺と同じく破れ去って今の自分と同じような感情に陥る未来のプレイヤーたちを憂い、スーパー麺は心の中で静かにそう呟いた。
夢というのは残酷だ。
「景品」を得られるのはたった20人。
遠くなっていく光に存在しないはずの手を伸ばす。
初めは細かった自分の腕も、今はずいぶんと太くなってしまった。
スーパー麺は笑う。
そこの見えない奈落に落ちていく中、そうすることくらいしかできることはなかった。
───最後の最後で他人の心配とかどうなっちまったんだ俺は・・・
───俺にそう思わせるくらい、このイベントは狂気に満ちている者だったのだろうか・・・
やがて、この電子空間には存在しないはずの「痛み」が急激にスーパー麺の全身を襲ったのかと思うと、次の瞬間に彼の意識はプッツリと弾け飛んでしまった。
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