第3話 謎こんにゃく

 枝が突き刺さったままズブズブと中に沈んでいく様を観察していた。

 どうやら丸い球状の謎のコンニャクは、取り込んだものを溶かしてしまうように感じた。


「なんなんだろう……」


 謎のコンニャクは白い曇りガラスみたいな見た目で、吸い込まれた小枝が薄っすらと見えていた。

 やがて小枝自体が見えなくなると謎のコンニャクは動き始めた。


「ええ!」


プルッと震える度に少し動いている。

 自立して動いているように見えるさまは小動物のようである。


「コイツ……動くぞ…………」


 謎のコンニャクは動物だったのだ。

 キノコみたいな物と誤認していたハジメは驚愕してしまった。


「近寄って来てるのかな?」


 小枝を吸い込んだ謎のコンニャクはゆっくりと近付いて来ているようだ。

 身体の位置をずらせても追従しているようである。


「なんだ、この動く変なコンニャクみたいな物はっ!」


 驚愕している間も謎のコンニャクは近付いてきた。


「こ…… こいつ…………」


 洞窟の中に居る丸い謎のコンニャク状でモゾモゾ動くものと言えば思い当たるのは一つしか無い。


「スライムじゃねぇかっ!」


 ハジメは洞窟の中で思わず叫んだ。


『……じゃねぇかっ!』

『…………じゃねぇかっ』

『………………ジャマイカ-』


 叫び声が洞窟の中を木霊していく。


「じゃあ……この洞窟って…………」


 ハジメが知る限り(ネット限定)において、この世界でスライムが確認されたことは無い。


「ダンジョン?」


 そう、ここはハジメが身が捩れるほど憧れていた迷宮(ダンジョン)なのだ。

 そして、眼の前に居るのは『スライム』だ。確定はしてないが間違いないだろう。


「見た目違っている感じだがスライムに間違いないだろうな」


 本来ならスライムの体は半透明で、核が透けて見えるとされるがコイツは白く濁って見えていた。


「魔獣って奴になるのかな?」


 魔獣と言えばゴブリンとかをイメージするがスライムも魔獣に違いない。

 ハジメはワクワク感が止まらない。

 日頃、読み込んでいるネット小説の世界が目の前に広がっているからだ。


「よし、写メしておこうか……」


 ハジメは手に持ったスマートフォンで画像を撮ろうとした。

 記録してネットで詳しく調べてみようと考えたからだ。


「あれ?」


 ところがスマートフォンの画像は真っ暗なままだ。カメラは起動してるっぽいが何も表示されない。

 シャッターを押してみたが反応は示すが何も映らないままであった。


「故障したのかな?」


 カメラアプリを終了させて待機メニューに戻すと通常の表示だ。

 こういう時にはWebで検索するのが早いかとモーグル先生を立ち上げる。

 しかし、クルクルとマークが回転するだけであった。


「あっ、アンテナが立ってない!」


 どうやらダンジョンの中と外の世界へは通信が出来ないようだ。

 其の為、ネットに接続できず、利用できないのであった。


「何でだよ……」


 想定外の出来事に戸惑いの表情を見せるハジメ。


「困った時は再起動……」


 父親がそう言っていたのを思い出した。

 パソコンや家電が動かなくなると電源を一旦切って入れ直すと動く事が多い。

 ハジメは携帯の電源を切って、再び電源を入れ直してみた。


「……」


 駄目だった。画面は暗いままだ。

 アプリも再起動かけたりしてみたが無駄であった。


「まあ、良いか……」


 ハジメは諦めてしまった。

 目的は眼の前にいるスライムをやっつける事だ。画像に残すことでは無い。


「うりゃっ!」


 ハジメは気持ちを切り替えて手に持ったエクスカリバー(枯れ枝の棒っきれ)で叩いてみた。


ポヨン


 ちょっと叩いただけではダメージは受け無いようである。

 靴で蹴ってみたりしたが結果は変わらなかった。


「コイツ……頑丈だな……」


 何をやっても表面を波打たせてフルフルと震えただけだった。


「むぅ~…………」


 スライムは打撃には滅法強いとされているのを思い出した。


「そう言えばスライムに消毒液を掛けてやっつけるラノベが有ったな……」


 そんな事をふと思い出した。

 ハジメは異世界探索物のラノベ小説が好きだったのだ。

 毎日、貪るようにWeb小説を読み漁っている。


「エイリアンの漢汁(おとこじる)だったっけ?」


 ちょっと違う。


「家から調達してくるか……」


 一旦、家に帰って消毒液を調達してくることにした。


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