イカれた女共の強要包囲網。今日も理不尽に搾取されて俺は諦める

助部紫葉

口内レンジ




唇にぬるりとした感触と共に目が覚めた。



「あむっ⋯⋯!んっ⋯⋯!じゅるっ!じゅるるるっ!んじゅっ!ぢゅうぅ!ちゅっ⋯⋯ちゅっ⋯⋯!ちゅるっるるぅっ⋯⋯!」



目を開けるとゼロ距離に見慣れた顔がある。


隣の家に住む幼なじみの如月きさらぎ風那かなんである。


風南は寝ている俺に覆いかぶさり、我を忘れて一心不乱に俺の唇に自分の口を押し付け、貪っていた。めちゃくちゃ舌入れてくるじゃん。因みに目はガン開きのガンギマリでちょっと血走っているようにも見える。これもうホラーの類。


そんな風那を引き離そうと肩に手をやって押してみる。


ガシィッ!!!


風那は俺の頭をガッツリロックした。この華奢な見た目で何処にそんな力があるというのか、全くビクともしない。


俺が目が覚めようがどうしようがお構い無し、風那は口を離す気も俺から離れる気も無いようである。


俺は諦めた。


風那に唇を貪られること数十分。


満足したのか風那はやっと唇を解放してくれた。



「風那さん⋯⋯人の寝込みを襲うのヤメテ?」



おかしい。昨日寝る前にしっかりと部屋のドアの鍵を閉めたはずなのに。


ドアを見る。ドアノブが無くなっていた。また風那に破壊されたか。これで何回目だろうか。



「ひーちゃんやっと起きたんですね。おはよっ」



シレッとそんなことを言う風那。


ひーちゃんとは俺の事。どうも三戸みと広忠ひろただと申します。高2の学生です。宜しくお願いします。



「いやいや。どう見ても起きてたの気がついてるよね?目と目がバッチリ合ってたよね?」


「ひーちゃんは寝坊助さんですね」



俺はスマホを確認した。寝る前にセットした筈の目覚ましアラームの設定はOFFになっていた。おそらく風那の犯行だろう。


風那の襲撃に備えようとかなり早めの時間にアラームをセットしていたのに。コイツ何時に来たんだ⋯⋯。



「朝ごはんの用意は出来てますよ。私は下で待ってますから早く着替えて降りてきてくださいね」



ニコニコしながら風那は部屋の隅に立つ。何処から取り出したのかビデオカメラを手に構えて俺に向ける。



「下で待ってるとは?何を撮ってんでしょうか?」


「早く着替えないと朝ごはん食べてる時間なくなっちゃいますよ」



着替えを急かしてくる風那。


あー、はいはい。


俺の着替えを撮影したいのね。なるほどね。勘弁してよ。どこにそんなの需要あるんだよ。


俺は感情を殺して着替えをした。いつもの学生服に着替える。


着替えを終えて学生鞄を手に取り部屋を出るとすぐ後ろから風那が着いてくる。チラリと振り返って確認するが、まだビデオカメラを俺に向けて構えて居た。


階段を降りて1階にあるリビングへ。


テーブルの上に並べられた朝食と思われるものが並べられている。


白米、味噌汁、目玉焼き、ベーコン、サラダ。


その全てに風那の想いが込められたケチャップで書かれたと思われる赤いクソデカハートマーク。



「朝食を用意してくれることには感謝しかないんだけど米と味噌汁にケチャップ入れるのヤメテ?」



米と味噌汁に直ケチャップは普通に不味い(経験談)。



「もう。ひーちゃんが寝坊助さんだから、すっかり冷めちゃってますよ。今、温め直しますね」


「⋯⋯はい。お願いします」



椅子に座って食卓につくと風那も俺の隣に腰掛ける。風那は箸を手に取り、茶碗を持ち上げ、そのまま冷えた白米をパクリと口に含む。



「⋯⋯温め直してくれるじゃなかったの?」


「もごもご」



もごもごしていて風那の返事は無い。あー、普通に食べてる途中で話せないか。


そんなことを考えていたら風那は茶碗と箸を置いて、俺の方を向く。


ガシィッ!!!


俺の頭が風那の両手でロックされる。


押し付けられる唇。


こじ開けられる口。


押し込まれる柔らかい何か。


うむ。これはちょっと生ぬるくヌメリのある米だ。


あー、なるほどなるほど。


冷えた白米を風那さん口内レンジで人肌に温め直してくれたってワケね。


俺として出来れば口内レンジと言う聞いたこともない原始的な力技装置ではなくて、電子レンジという人類の英智が詰まった現代文明の利器を使用してもらいたいと思う。


口内レンジだと全部温めるまで複数回の工程が必要だけど、電子レンジだと1回チンすれば済むと思うんだよね。



「電子レンジ使ったら?」


「もごもご」



ベーコンをもごもごと口の中で温めている風那からの返事は無い。


俺は諦めた。








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