記憶の迷宮

黒豆ちゃん♪

記憶の迷宮

珍シイ。



オ客様ダ。



此処ハ、記憶ノ迷宮。



私ハ



此処ノ管理人ダヨ。



名前?



教エナイ。




私ノ事ハ忘レテ良イヨ。



不要ナ情報ダカラネ。



サテト。



私達ハ沢山ノ記憶ヲ持ッテ生活シテイル。

ダカラ忘レタ記憶モ有ルデショ?



人間ダカラネ。



流石ニ忘レルヨ。



デモソレハ何処ニ行クト思ウ?



正解ハ…




此処ノ事ダヨ。



此処ハ


世界ノ全部ノ記憶ガ残ッテイル。


  昔ノ英雄ノ記憶モ例外デハ無イ。



デモ此処ニ来レルノハホンノ一握リ。



ダカラ自分ノ忘レタ記憶ヲ取リ戻セル人ハ

殆ド居ナイ。



来レテモ一瞬ダカラ



他人ノ記憶ハ見テイル暇ハ無イ。



ソンナ中アル少年ガ生マレタ。



彼ハ物事ヲ覚エテオケナイ体質ダッタ。



直グニ、忘レテシマウ。



デモソノ代ワリ


記憶ノ迷宮ニ居レタ。



変ナ体質ダヨネ。



コンナ人ハ、一生居ナイダロウ。



彼ノ生キ様ハ凄カッタヨ。



アレコソガ『伝説』ダネ。




コレハ、ソンナ彼ノ物語。




ダカラト言ッテ何カヲ学ベト言ウ訳デモ無イ。




タダ一少年ノ生キ方トシテ見テ欲シイ。




「私達ニハ何モ関係ナイ事ナノダカラ。」




コレヲ読ムト世界ノ禁忌ニ触レル事ニナル。



ソレデモ貴方ハ読ミタイダロウ。



コレハ、貴方ノ「定メ」ダカラネ。



折角ナラ、楽シンデネ。


私ハ、ツマラナイノ、嫌イナノ。




飽キナイデネ。





「記憶ノ迷宮ニ、行ッテラッシャイ」





◇◇◇




―本当ハ、管理人ナドイナイ。



デモ、アル意味管理人カ。




アノ人を受ケ継ガナイトナノニ。





ヤハリアノ人ノ様ニハ…ナレナイ。




下ニ行ッテホシクナカッタ…。



アソコマデシナクテヨカッタノニ。



下ニ行カセタセイダ…。



私ニハ…下ノ魅力ガ、理解出来ナイ。



嗚呼…。



ソロソロ充電ガ無クナリソウ…。



折角復活シタ…ノ…ニ…。






記憶の迷宮

作:黒豆ちゃん♪







ここは、港零雀充国。その最南端の土地である、靖澪領の平民として彼は生まれた。名を「茉織斗」。彼は、変な体質を持っていた。それは、長時間物事を記憶しておけない、というものであった。


物事を記憶しておけないということは、体に染み込ませておくしかない。そのため、彼の場合は言葉を覚え、かけるようになるだけで10年の月日をかけたのだ。その時には周りの人は足し算や引き算、掛け算や割り算が簡単にできるようになっていた。その差は足掻いても埋められない差だった。だから、彼はみんなから虐げられていた。でも、言葉をまだ覚えたてなので全然意味も理解できていないし、何より虐げられていることを忘れてしまう。みんなはそれが気持ち悪くて虐げることを辞めるようになっていった。




彼の母親は若くして亡くなってしまった。彼の父親は酒飲み野郎。まともに働きはしない。ただ風俗に行って遊んでくるような社会の屑を表している野郎だった。でも、彼にはそんなことが理解すらできていなかった。彼にとってはこれが「当たり前」だったからだ。記憶は残っていなくても、体は記憶していた。しかし、そんな彼の当たり前が、とある日を境に変わることになる。




それは、とても激しい嵐の日であった。しかし、彼は記憶がないためこの状況がどのようなものなのかを判断することができていなかった。そのため、いつも通りに体に染み込んでいることを繰り返すために外に出た。勿論、嵐なので彼は飛ばされてしまったのである。



飛ばされた先は、あたり一面が黒い世界の場所。その中にキラキラと輝くものが落ちている。そう、ここが「記憶の迷宮」と呼ばれる場所だった。誰もいない、とても静かな場所。ただ、何かがキラキラと輝いているだけ。しかし、彼はよくわからないが、そのキラキラと輝くものを拾い上げた。その瞬間、彼の中には物凄い量の記憶が流れ込んできた。彼は情報量の多さに耐えきれず、倒れてしまった。



彼は起き上がった。いつも通りに起き上がったのに、頭の中には何かが大量に詰まっているような感覚がした。そう、忘れてしまうはずの記憶が残っていたのである。彼にとってはこの体験は初めてのことであった。だから、とにかく彼は驚いた。これまでの日常生活が、頭の中で再生されている…。これは、普通の人にとっては普通なことだが、彼にとっては普通ではないのだ。自分の記憶がある…。みんなと同じようになれたことに喜びを感じていた。彼は思いつく。




他のキラキラ…記憶を取ったらどうなるのだろう。




自分の記憶はすべて頭の中にあるはずなので、この記憶たちは自分のものではなく、他の人のもののはずだ。ここまでは考えていないのかもしれないが、子どものような好奇心を持っている彼にとってはとても魅力的である。結局彼は近くに落ちていた記憶を取った。




…記憶が、自分の頭の中に入ってくる。




この記憶は、やはり他の人のものであった。なんでこんなものが自分の頭の中で再生されているのかが彼には理解できない。だから、どんどん周りに落ちていた記憶を見つけては取り、見つけては取り、を繰り返した。



いつの間にか彼の周りには記憶がすべてなくなっていた。その時の彼の頭の中にある記憶の持ち主の数は、なんと脅威の100000000000000000000000000000000000000人。数が多すぎて、彼はもう、ただの記憶保管庫になってしまっていた。それでも、彼の頭の中には自分自身の記憶が一番強く残っていた。



彼は毎日を、昔の英雄たちの記憶でさえ彼の頭の中にあるので、天才的な頭脳が勝手に、生きるために必要なことのために体を動かし、天才的な剣の才能によってその能力を補助して獣を狩り、それを天才的な料理の才能でその能力を補助して料理して食べていた。こんなの、AIでしかない。否、AIですらもできない領域だろう。


このままでは元の世界に戻ったとしても、異人として迫害されるか、最悪危険だと判断され死刑になるだろう。嫌な記憶しかない世界に戻る必要など無い。彼はそう判断したのか、「記憶の迷宮」に残ることにした。





◇◇◇





何年の月日が経った頃だろうか。彼はもう同じようなことを繰り返して飽きてきていた。飽きてきた、というよりかはタダのAIのように同じことを繰り返しているだけだということを判断したのだと思う。彼は話し相手がほしかった。自分と一緒に話してくれる人がほしい。そうして彼は人型のAIを作ることにしたのだ。




最初はAIの機能を作り上げることにした。彼にとってはコレは簡単な行為であった。なぜなら、彼には1000000000000000000000000000000000000000000人の記憶があるのだから。勿論その中にはAIを作るくらいにはできるプログラミングの技術を持った人も何人も何人もいる。だから、彼にとっては暇つぶしにもならないくらいだったのだ。ちなみに、最初に来たときに比べてまた記憶の数が増えた。毎日のように少ない量の記憶は落ちてくる。一番美味しいのは勿論その人が死んだときである。




しかし、機能を作り上げるよりも大変だったのは素材集めである。素材は集めようとしてもすぐに集めるのはなかなか難しいから、これにはすごく時間がかかってしまった。AIだとしても難しいのである。正確にはAIではないが。



そんな中、一人の記憶が落ちてきた。その内容は「創造魔法」だった。



この世界には、魔法が存在する。主な属性は、火・水・氷・草・風の5種類。レアで無属性がある、という形である。勿論、創造魔法は無属性に値するだろう。



創造魔法は、空気中に含まれる酸素からものを作り出す、というものである。なかなかすごい内容のものだが、酸素は有限だし、酸素がなくなったら生きていけないので大量生産はできなかったはずである。しかし、彼には酸素などどうでもいいような存在だったのだ。酸素がなくても彼は生きていける。よくわからないが、いつの間にかそうなっていたようだ。そのため、彼ならこの能力を最大限活用できる。早速彼はこの魔法を使うことにした。



彼は魔法など使ったことがなかったので、なれるまでには大量の時間を要した。慣れてしまえば簡単だった。この能力を使えば一番めんどくさいと思われていたAIの身体部分を簡単に作ることができるだろう。そう思い、彼は魔法を使う。




ズシン。




体に負担がかかったような感覚がした。酸素が一気に減ったせいだろうか。酸素がなくても生きていける、といっても主は酸素なので、違和感があったのだろう。それでも、なんとかしてAIの身体部分を作り出すことができた。黒髪ロング、きれいな黒目で、服は白のワンピース。少しだけ飾りがついているくらいで、とてもシンプルなものである。想像通りの代物になった。あとは、これに機能を追加させればいいだけである。機能は完成しているから、あと少しだ。


慎重に、慎重に機能を追加させていく。AIだとひと目でわからないくらいに自然な人間にするためには、慎重にやっていくことがいちばん大切である。どこかでミスするだけでもおかしくなってしまう。大変ではなかったが、コレが一番大変な作業だっただろう。





…できた。




長い時間をかけて作り出した自分の話し相手…。折角なら名前をつけてあげたい。名前は、その人の一生涯においてとても大切なものだから。




…李緋斗。りひと。




呼ンダ…?




AIが話し始める。最初に呼んだ名前が自分の名前、というふうに認識するプログラムを組んであるので、ちゃんと反応してくれたようだ。




…お前の名前をもう一度言ってみろ。




私ハ、李緋斗。李緋斗ダヨ。




このプログラムも問題ないようだ。うまくいくか不安ではあったが、うまく行ったようだ。ここまでちゃんと話せるなら、きっと暇も解消されるはず。そう思っていた。しかし、現実はそう甘くなかった。


五日ほど経った頃、李緋斗の最大の欠点に気づく。それは、李緋斗から話しかけてくれない、というものである。そのため、話のネタが切れてしまえばすぐに話をすることができなくなる。結局暇になるのだ。それじゃあ、意味がない。すぐに機能を入れ込む。




茉織斗…、何カ話ソ?




…ちゃんと自分から話しかけてくれるようになった。李緋斗の方から話しかけてくれれば、話題提起もしてくれるだろう。



それからの日々は楽しかった。毎日のように李緋斗と話し、笑い合う。時々一緒に釣りに行ったり、狩りに行ったり…。記憶の迷宮はあたり一面が黒い世界のはずなのに、世界が彩りに溢れているように見えた。今までが暗すぎて、この生活がとても贅沢なものだからなのだと思う。それでも、彼にとってはコレだけで十分だった。





◇◇◇





何十年という、長い時間が過ぎた。彼はもうお爺ちゃんである。変わらず、李緋斗と話している。李緋斗はこれがずっと続くと思っているだろう。しかし、茉織斗は気づき始めているのだろう。…もう長くないということを。



彼の目から急に涙がこぼれ落ちてきた。なぜだかは、誰にもわからない。でも、その直後に彼は李緋斗に言う。




…俺は、下に戻る。




ナンデ…?茉織斗、ズット一緒ジャナイノ…?




李緋斗は完全に動揺している。当たり前だ。あんなに毛嫌いしていた、嫌な記憶しかない世界に戻りたいと言っているのだ。頭が狂っているのではないだろうか。





…この数十年で、どのくらい世界が変わったのかを自分の目でみたいんだ。

記憶でならこれまでも見てきた。でも、場所は様々だった。

…俺はもう長くないんだ。最後くらい下に行ってみてもいいだろう?

それで殺されようが、どうせ変わらない。そろそろ死ぬ運命なのには変わりがないのだから。




ここまで言っても李緋斗は食い下がらない。





変ワル。

最後ハ、私ガ見送リタイ。

下ニ行ッタラ見送レナイ。

私ハ、茉織斗ガ居ナイト、生キテイケナイノ。

一瞬ノ気ノ狂イダヨネ…?

ソウダト言ッテ、茉織斗!





…それでも俺は下に行く。

百聞は一見にしかず、って言うだろう?

だから、俺は見に行くんだ。

自分の体で、下の世界を見たいんだ。




李緋斗は泣き出す。AIなはずなのに泣けるのである。まぁそれは一旦置いておいて。

流石にここまで言われてしまえば、李緋斗には止めるすべがなかった。すべてを受け入れるしかなかった。




…李緋斗。最後に一つ、お願いがある。

…ここ、記憶の迷宮を管理して。

お前ならできると信じて言っている。

俺の意思を受け継いでくれ。

…それがお前の「定め」だよ。





定メ…?

私ノ…定メ…。

元々、コウナル運命ダッタノカ…。

悲シイケド仕方ガナイ…。

コレガ、茉織斗ノ最後ノ思イ、ナノカ。





…。もう会えないけど、また、なにか機会があったら会えるかもしれないだろ?無いと思うけど。でも、それまで待ってろよ。






そう言い残して彼は下に戻っていった。




◇◇◇




帰ってきた彼が、まず最初に驚いたのは勿論世界の彩り。次に驚いたのは「町並み」だった。記憶では見たことがあったが、実際に見るのはこれが初めてだ。完全に近代化した町並みである。


…ほんとに世界は変わったのか。



暗闇の中で過ごした時間のほうが長い彼にとっては、すべてが驚きだった。常識が完全に違った。目に見える風景の情報量が多くて頭がくらくらしてきそうだ。




「ねぇ、お母さん、あの人の服なんか変だよ〜?」

「しっ!そんなの見ちゃいけません!」




後ろで姿を見て注意されている人の声が聞こえた。この世界のファッションを作ってくればよかった…。今更ながら思うのであった。



その後も、すごくきれいに整備されている道(この世界では当たり前)を通って世界を巡る…はずだった。すぐに彼の人生は終わってしまう。


急に後ろから馬車が突っ込んできたのだ。みるからに貴族のもののようだ。



「あらやだ、愚民を引いてしまったみたいね。最悪だわぁ〜。折角気分良かったのに。ほら、早く行くわよ!こんなやつ、死んだって誰も気にしはしないわよ。」



中から覗いてきた女性が言った言葉によって、彼のなかのネジが外れた。



…死ぬんだったらこいつも道連れだ。




そう言って創造魔法を使う。作るものは…記憶の迷宮だ。無理だとわかっている。だからこそ、作ろうとしているのだ。



創造魔法は酸素を使う。人間は酸素がないと生きていけないので、その酸素をすべて創造魔法に使ってしまえばいい。



グオオオオオオオオオオオオオ……。



世界のすべての酸素を持ってきて、記憶の迷宮をつくろうとする。一気に集まってくるせいで周りが凄い音を立てている。



…あと少し、あと少し…!!!


無理だと思っていた記憶の迷宮だが、まさかのあと少しで完成しようとしていた。



「い、息が…急に…でき…なく…。」

「グアッ…。」



後ろで断末魔が聞こえる。それだけでも十分ではあるが、ここまで来たら完成させたい。



…っ…いけっ…!!!





バンッ!


眼の前が急に暗くなった。…多分、成功だ…。




茉織斗!?茉織斗!

下ニ行ッタンジャナカッタノ!?





遠くから李緋斗の声が聞こえる。…ほんとに成功したのか…。…でも、もう無理なようだ。


…ごめん、李緋斗…。



茉織斗!茉織斗!

逝カナイデ!

嫌ダ!




そうして彼は死んだ。下の世界の人も道連れにして。


この下の世界も、もう記憶の迷宮と化してしまった。






あと生きているのは…李緋斗だけだ。




〜完〜








作者からのメッセージ_____


初めて短編小説にチャレンジしてみました!いかがだったでしょうか?


李緋斗のセリフを片仮名にしたのには実は理由があって、李緋斗は一応AIだからそれっぽくしようと思って(笑)

実際は最初の不気味な雰囲気を出すためにやってて、これ伏線にしようと考え始めたのは途中からでしたね。はい。


記憶…って、すぐ忘れますよね。短期記憶と長期記憶、って言われますもんね。そんな記憶の行き場を作ってみようと思って、この作品を執筆させていただきました。


大体の人は誰かが覚えていないと、自分のことを知っている人が居なくなる。けど、こうやって茉織斗のように覚えてくれている人がいる、というのだけでも幸せなんじゃないかな、と思ったり思わなかったり。


あ、あと皆さん、言動には気をつけるように。この話のように世界滅亡するかもしれませんよ。(さすがにないと思うけどね)

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記憶の迷宮 黒豆ちゃん♪ @kuromametyan-315

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