私の幸せはあなたの隣にいること

@rinka-rinka

Episode

僕は今日最愛の君に別れを告げた。

大好きだった。愛していた。誰にも渡したくないと思っていた。

君と将来を誓い結婚を考えてきた。

そんな未来を自ら捨ててしまった。


もうすぐこの世界は聖なる夜が訪れようとしており、街は聖夜の歓迎ムードを醸し出している。

「来年のクリスマスも一緒だよ!」

屈託のない笑顔で笑う君を見てからもう一年が経とうとしている。

「時の流れは早いなあ」

と言葉をこぼした僕は君を迎えに駅前の噴水へ向かう。

駅前はまるで異世界に飛び込んだのかと錯覚させるようなイルミネーションが輝きを主張し、あちこちからクリスマスソングが流れてくる。

街の陽気な雰囲気とは裏腹に待ち合わせ場所に向かう僕の足取りは重たかった。

駅前の噴水の椅子に腰掛ける綺麗な黒髪をした女の子いる。

僕の自慢の彼女だ。

「おまたせ」

そう声をかけると君は笑顔という名の花を咲かせた。

「待ってたよー!今日は楽しみだね」

嬉しそうに僕を見つめる君はきっと僕と過ごす聖夜に思いを馳せているのだろう。

躊躇っても仕方がない。きちんと言わないと。

そう、思ってここまできた。

だけどいざとなると言葉に詰まる。

「どうしたの?」

君が心配そうに声をかける。

意を決した。

「大切な話がある」

一つ大きく息を吸って気持ちを落ち着かせ、真っ直ぐに君の目を見た。

「大切な話?何かな?」

「僕たちもう別れよう。これ以上は君と付き合えない」

ついに言った。

言ってしまった。

もう後戻りはできない。

街行くカップルの談笑、陽気なクリスマスソング。

全ての音が遠くに感じてしまう。

「な、んで、急にそんなこと……」

「本当にごめん。もう付き合えない」

「私何か悪いことした?もう私なんて嫌いになっちゃった?」

そんなことあるはずがない。

今でも僕は君を愛している。

それでも君のためを思うなら別れなければならない。

「そんなことない。変わらず君を愛してる。それでもごめん。別れよう」

この場にいても双方にとって良くないと思った。

だから僕は静かに君に背を向ける。

後ろから君の声が聞こえてくる。

それでも僕は君を振り返ることはなかった。


君と別れた。

なぜかすっきりしている自分がいる。

これでいいんだ、これで。

明日は大事な日だから。

結果はもう変えられないとしても。


「あはは、やっぱりだめだったか」

静かにベッドの上で呟く。

もう僕は助からない。

手術は予想通り失敗した。

だからこそ、僕は君と別れたことを全く後悔していない。

君には幸せになって欲しい。

死にゆく僕のことなんか忘れて幸せに生きて欲しい。

ある意味最期の君へのわがままかもしれないな。


ベッドに寝たきりになってしまった。

もうすぐなんだって。

どこか他人事のように感じてしまう。

君は幸せに生きるんだよ。

君には心配かけたくないからね。

このまま僕のことを忘れて欲しい。


突然病室の扉が開いた。

何度も見てきたあの姿。

別れたはずの君がいた。

でもいつもみたいな素敵な笑顔はそこにはなかった。

「なんで言ってくれなかったの?」

真剣な表情で僕を見つめる。

「心配かけたくなくて。それに幸せになって欲しくて。僕と一緒にいても幸せになれないから」

「本当にバカなんだから。心配かけていいじゃん。彼女だよ私。何が悪いの?それに私の幸せを勝手に決めないで。私の幸せは何があってもあなたの隣にいることなんだよ」

急に君と過ごした日々が走馬灯のように頭を流れていく。

ああ、そうか、そうだよな。

僕が君をこんなに愛してるように君も僕のことを本当に愛してくれていたんだな。

少しの罪悪感が僕を襲った。

「ごめんね、本当に。そして来てくれてありがとう」

「いいんだよ。最期の時までそばにいさせて。それが私のしたいこと。それが私の幸せになる」

「うん、わかった。お願い」

もしもあの時僕が本当のことを伝えていたら、少しくらい未来は変えられたのかな。

君が僕の隣にいることが君の幸せと言うのなら、僕の隠し事でその幸せを奪ってしまったのだと思う。

僕たちはしばらく言葉を交わすことはなかった。

でもこの感覚がどこか心地良いって思う自分がいる。

「私ね、本当に幸せだよ。いろんなとこに連れて行ってくれて、いろんなものをプレゼントしてくれて、たくさん愛情表現してくれて、本当にかけがえのない思い出がいっぱいあるんだ」

「うん、僕もだよ」

「多分、あなたはいなくなっちゃうんだと思う。それでも幸せだった日々は消えない。私の心に残り続けるから」

「ありがとう、本当にね」

君はいつもの屈託ない笑顔で僕を見つめる。

「今までありがとう。本当にあなたのこと愛しているよ」

僕も愛してるって返したかった。

いつも何度も言ってきた言葉。

今はうまく言えない。

なんで、声にならない。

「あい、し、てる」

掠れた声が出た。

君が視界から消えていく。

ああ、どうか幸せになってくれよ。

君の少し曇った笑顔が見えた気がした。


ああ、逝っちゃったか。

さっきまでひどく冷静だったけど急に目頭が熱くなって雫が溢れてきた。

「あなたがいなきゃ幸せになんてなれないよ。あなたの隣にいることが私の幸せなんだもの。あなたがいなきゃ意味がないのに……」

病室に響き渡る嗚咽。

聖なる夜ははもう終わった。

またいつもの日々を歩いて行かなきゃならない。

今度はあなだがいなくなったこの世界で。

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