第7話 幸せは途切れながらも続くのです

「テント、大きすぎたな。」

祐真は、店のロゴが入ったタープを見上げて、ため息をついた。

「気合い入りすぎましたかね?」

佳澄は、ミニバゲットをトレイに並べながら答えた。


地域のマルシェイベント。

サンライトベーカリーは、初出店。

きっかけは、佳澄が店の奥にしまわれた箱から見つけた、一冊のノート。


「これ、真帆の?」

ページには手書きのレシピやパンのスケッチ、紡がれた言葉たち。

『3/17 あした陽翔にチョコパン焼こう。失敗したら祐真に食べさせよう。』

『4/5 外に出てみたい。パンを配達して、誰かの朝に届けてみたい。』

佳澄はページをそっと撫でた。


ふと、思い出した。

あの日、初めてこの店の前を通ったとき。

「サンライトベーカリー」の小さな看板が佳澄の視界にぴたりと留まった。

まるで、誰かに「ここだよ」と指を差されたみたいに。


「いらっしゃいませー!これ、ぼくが焼いたんじゃないけど、おいしいよ!」

陽翔の明るい声が広がる。

佳澄は、ノートのレシピをもとに「サンライト・ブレッド」を丁寧に焼いた。

外はカリッと、中はふんわり。

真帆が愛した、“朝の光みたいなパン”だった。


焼きあがった香りが風に乗ってひろがる。


あっという間にサンライトベーカリーのパンは売り切れた。

片づけがひと段落して、祐真が佳澄にノートを手渡した。

「サンライトのこと、レシピとか、思ってることとか何でも書いて。これから、二人でノートを作っていきませんか。」

「…えっと、それはいわゆる告白、的な?」

祐真はハッとして「いや!そんな、まぁ、そうだね。これからもよろしくお願いします。」


佳澄は、小さく笑ってうなずいた。

その目は、やわらかく光をとらえていた。

陽翔が、空を見上げて言った。

「今日のパン、ママに届いたかな?」

「届いたさ。香ばしく焼けた、いい匂いだったからな。」


風がノートのページを一枚めくった。

そこには、余白が広がっていた。


これから三人で未来を描いていく。


新しい物語のはじまりだった。

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サンライトベーカリー マレブル @CODINO18

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