恋人未満がいい

縞間かおる

第1話

 中学時代は……ライバルだと思っていた。


 と言うか……私が一方的に“仮想敵国視”していた。




 だって!


 学校でも塾でも


 彼の名前はいつも私の上にあって


 それが悔しくて


 どんなに必死に勉強しても


 私の名前が彼の上に載る事は無かった。


 なのに彼は夏休みまで部活もやって、それゆえ夏期講習だって受講してなくて


 なんだか分からないけど……受験が明日だと言うのに、生徒会役員のOBとして後輩の世話まで焼いていた。


 いったいいつ勉強してたのよ?!!


 ってガチで聞きたるくらい!!(勿論、聞きはしないけど)




 んっとに!悔しいよね~


 でも、そのお陰で受験勉強も手を抜かずに駆け抜ける事ができて、ウチの中学からは私と彼のたった二人の合格者しか出なかった谷野高校へ入学できた。




 超進学校だけど制服も可愛い“谷野”は私の憧れで……家からは電車とバスを乗り継ぐ距離なのだけど意に介さなかった。


 それなのに……入学早々のある朝、私は酷く体調を崩して駅のホームでしゃがみ込んでしまった。


 その私に声を掛けてくれたのが彼だった。


 彼は蹲っている私の分まで教科書満載の激重バックを抱えて、私を多目的トイレへ誘導し


「ゴメンね」と言いながら私を介抱してくれた。


 そればかりか、吐き戻してぐったりしている私の前に跪いて……自分の天然水のペットボトルの口を開けて私と真っ白なタオルに、色んな物で汚れてしまった私の顔をそのタオルで丁寧に拭いてくれた。


 正直言うと彼のタオルの柔軟剤の香りはちょっと強いし、自分のみっともない姿を晒すのが辛くもあったのだけど……私が涙模様になってしまったのはそれだけでは無い。


 少し落ち着いてから


「私の方がゴメンだよ」と頭を下げると


「オレ達で、遠距離通学同士なんだから助け合おうよ」と笑顔をくれた。


 部活焼けの肌に白い歯が映えるその時の笑顔は……私の心の中の宝箱へそっとしまわれた。




 その日から……私達は友達になった。




 クラスも部活も違うし……別に毎日と言う訳では無いけど、週に何回かは同じ電車に乗り合わせたし、一緒に図書館へ行く事もある。




 そんな日常が積み重なると、彼の素敵なところを沢山見つけてしまう。


 その分だけ、私の中で彼の存在が大きくなる。


 私と帰らない時は……同じクラスや部活のと帰っているのかしらと悶々と考えてしまう。


 彼が男子と帰ったり独りで帰ったりする事はあるだろうに……


 でも、彼に目を付けない女子が居ない筈は無く、私は何の権利も無いのにヤキモチを焼いている。


 ああせめて!


 彼と友達以上になりたいなあ~


 でも……私はテストでまだ彼に一度も勝った事が無いから……


 今は……恋人未満がいい!






                              


                              おしまい



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恋人未満がいい 縞間かおる @kurosirokaede

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