1刻 出会いの時

「ねぇ、パパ!ママ!早くしないと売り切れちゃうよ。」

「こーら、夏葵あおい。落ちつきなさい。」

「だって…。」

「そんなに急いでたらパパもママとも逸れちゃって迷子になるよ?」

「うぅ…。」

両親に言われてオレは縮こまった。

親からの優しさを受けつつもショックが勝ってしまうお年頃のオレ、海砂水うさみ 夏葵あおいは両親と一緒にこの 神社のお祭りに来ていた。

昔ながらの古き良き神社だってパパが言ってた。オレからしたら新しいものの方が興味惹かれるけど。

「やっと並べた!楽しみだな…。」

「夏葵、何味の綿飴が食べたいの?」

「それはもちろん、この謎味ってやつ!」

オレは屋台の端に貼ってある、限定と書いてある張り紙を指差した。

どうやら、数が限られてるらしい。

でもこれをどうしても食べたかった。何故なら…友達みんなが狙ってるからだ。

屋台のおじさんの息子がオレの友達にいる。つまり、何を売るのか知っているというわけなんだ。

それを教えて貰ったオレたちは誰が一番早く味を噛み締めることができるのかというくだらない遊びを約束した。

と、ことの始まり?とかいうのを思い出していたら順番が来てしまった。

「おじさん!謎味のわたあめちょうだい!」

「おぉー!夏葵くんじゃないか。待ってな。」

おじさんは後ろにある割り箸と謎の飴玉のようなものを取り出し、機械に乗せ始めた。

スイッチを押し始めると、グルグルと中のプロペラみたいなものが回り始め、糸を作り出している。

そこに割り箸を入れてどんどん形が作られていく。

「おぉー。すごい!!!」

「何度見てもやっぱ不思議だな綿飴って。」

オレが夢中になっている隣でパパは綿飴の機械に興味津々のようだ。

「ほい、出来たぞ。」

「わーー!ありがと!」

「おうよ。」

オレはようやく謎味の綿飴を手に入れた。

その味は……。

「う…ん?これは!」

「ちょっと、口にわたがついてるわよ。」

ママはオレの口元をティッシュで拭った。

この綿飴…。不味いわけではないんだけど美味しくもない。

言ってしまえば、よくわからない。ファミレスに行った時、ドリンクを色んなの混ぜて飲むような遊びで作った失敗作ドリンクに近い。

※本当に美味しくない混ぜ方もあるので、それとは別物です。

「パパ…これはコーラ、ラムネ、グレープフルーツを混ぜたなんとも言えない味だよ。」

「どれどれ…ふむ…!はっははっは。確かになんとも言えんな。」

「笑い事じゃないから!!」

結局この後オレは全部頑張って食べ切った。

もちろん、お水と一緒に。

『お祭りをお楽しみの皆様。これより、一大イベントである花火の打ち上げが始まります。』

花火のイベントについてアナウンスがされた。

正直やりたいことはやったからあんまり花火は興味ないんだけどな…。

「花火とは言ってもそんなにすごいものじゃ……」

「お母さん!花火がもうそろそろ始まるって…痛っ。」

「うわぁっ。」

オレがぼーっとしてた時に後ろから凄い勢いで何かがぶつかってきた。

オレはその勢いに負け、前に倒れた。声を聞く限り女の子がオレの背中にぶつかってきたんだろう。

「イッテテ。はぁ…。おい、お前だいじょ…。」

「うぅ…。痛いよ…。」

振り返るとそこには案の定女の子がいた。目と目が合った瞬間オレは固まった。その子はなんというか、ストレートに言うなら綺麗。

年はオレと同じ10歳くらい?髪はオレンジ色に近い茶髪で後ろで髪をまとめている。

可愛らしい金魚が描かれた浴衣を着ていて、

その姿もそうだが、何よりその黄色の瞳に惹かれた。いや心を奪われた。とても輝いていて、まるで……。

『花火打ち上げまで5分前となりました。今しばらくお待ちください。』

「ッ。もう始まっちゃう。早くあそこへ行かないと。」

「ん?どこに行くんだ?」

女の子は急いで立ち上がり、目的の場所はと向かおうとしているようだ。

「あなたには関係ないわ。ねえ、お父さん、お母さん早く行こう!」

女の子はオレに興味はなく、直ぐにでも向かいたいようだ。

「はぁ…華美はなび。まずは男の子にぶつかったことを謝りなさい。」

女の子のお母さんが彼女の目線に立って語りかける。オレの両親と同じでしっかりしてる。

「うぅ…。わかった。」

渋々と言った感じで華美と呼ばれた女の子は了承する。

「その…ごめんなさい。どうしても花火が見たくて周り見てなかった。」

華美はオレに頭を下げて言った。

「大丈夫だって、オレ強いからさ。それより君は怪我とかないか?大丈夫か?」

「え、あ…大丈夫だよ。」

オレが心配そうに聞くと、華美は一瞬戸惑った表情を浮かべるが直ぐに戻った。

「そうだ、華美。その子と一緒に見にいったら?」

「え?それは…」

オレは両親に目を向けた。

「良いじゃないか。せっかく知り合ったんだし、良い機会だから夏葵も異性と仲良くしてみたらどうだ?」

余計なお世話だと言いたい。でもなんというか…こう言う時多分、下心っていうのかな。

ちょっとはあり、何より彼女のことを知りたかった。

「うぅ…。いいよ。ねえあなたに教えてあげる。私の秘密の場所を。」

「へぇー秘密とはまた面白そうだね。」

オレたちは走り出し、屋台の隙間を通り抜ける。

「2人ともあんまり遠くに行くんじゃないよー。」

どうやら華美の両親は毎度行ったことがあるようで、場所は分かるらしい。

山道に差し掛かったところで華美は振り向いた。

「ここから大変だし疲れるけど大丈夫そう?」

「当たり前だ。オレは強いからな。もちろん体力も。」

「ふふ…何それ…。変なのー。」

訳わからないことを言ったのに、彼女には笑われただけだった。

そんなことを話しているオレたちの先に大きな音がした。よく見ると…小さな光が空に線のように上り…。

音と同じくらいの大きさの花火が上がった。

「わわ、もう始まった。急ぐよ。えーとあなたの名前は?」

「オレは海砂水 夏葵。君は?」

「私は陽玉莉ひだまり 華美はなび。よろしくね。」

あぁ…。もう心を掴まれた。

彼女の笑顔はまるで、遥かその先で上がり続ける花火のように眩しくて、綺麗で…そして儚かった。

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ここから始まったんだ。

オレの…いや俺と彼女の物語が。

青い夏の時間は、花火のように輝かしくて、眩しくて…とても儚く終わりが訪れる。

そんな日々が心地よかったんだ。

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