僕の能力は未来視
金木犀
僕の能力は未来視
突然だけど僕は未来が見える……
僕は黒木篤樹、この前中学2年になったばかりの、どこにでもいる普通の学生だ。
未来が見えると言っても、残念ながら日時の指定なんかはできない。
しかも未来は枝分かれするから、何かの弾みでコロコロ変わるんだ。
それだけに、色んなシチュエーションが楽しめるんだけどね。
子供の頃は夢なんだと思っていたんだけど、いつの頃からか本当の未来なんだって確信したんだ。
でも残念なことにこの未来視は、未来の僕の周りが見えるだけで、他の場所を選ぶことはできない。
でもいいことは、一回見た未来は目を閉じて念じると、続きを見ることができるんだ。
その気になれば寝ても夢で見れるし、その未来が変わるまで、ずっとその時間軸で先を見れるんだ。
もちろん今の僕が流れに干渉することも出来るけど、それによって変わった未来は戻らないことが多い。
上手く現在の行動を変えれば戻ることもあるけど、これはとても困難だ。
例えば明日起こることなんかだと確率は高いけどね。
僕が試しにやってみたのは、たまたまその日の夕飯の未来が見えてメニューがカレーだったときだ。
母さんに買い物を頼まれたときは、いつもなら二つ返事で行くのだけど試しに断ってみた。
そうして目を閉じると、夕飯のメニューは僕があまり好きではない筑前煮になっていた。
母さんは夕飯の準備をしながら「スーパーに行ったらレンコンと椎茸が特売だったのよ」ってその未来の僕に言っていたんだ。
僕がガッカリして目を開けると、母さんはまだ玄関に居たんだ。
当然だけど、僕が買い物してくるよとエコバッグを急いで奪い取った。
このときは元の未来に戻せることができて、その日のメニューはカレーに戻ったんだ。
ちなみにだけど、本当にスーパーの特売はレンコンと椎茸だったよ。
でもロト6とかはダメだったのには、とってもガッカリしたな。
多分だけど当選者が変わるから、未来そのものが大きく変わっちゃうからだと思っている。
あ、ごめん、前置きが長くなった。
でも、もう少しだけ聞いてほしい。
僕の両親は仲がいい、というかいつでもイチャイチャしてる。
大学での学生結婚だったらしいので、中2の僕がいてもまだ34歳だしね。
毎回欠かさず行ってらっしゃいとおかえりのキスを抱き合ってしてる姿には、僕だけじゃなく一つ下の妹も呆れている。
でもね、僕は密かに羨ましいんだ。
親戚のおばさんが偶に遊びに来るけど、おじさんは無言で送迎だけ、そしておばさんはおじさんの悪口ばっかり言うだけだし……
もしウチの子じゃなかったら、僕は結婚願望なんてなかっただろうなぁ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから僕は、自分の結婚生活が幸せがどうかが気になって、仕方がなかった。
そんな未来を見れるように願いながら、毎日布団に入っていたんだ。
そう、できれば可愛い相手とイチャイチャしていて欲しい。
なかなか思うようには行かなかったけど、数ヶ月が過ぎた頃、やっと結婚生活を見れるようになったんだ。
はじめはクラスメイトの高嶺さんだった。
高嶺さんはとても可愛い子なので嬉しいと思ったんだけど……
見えたのは結婚5年目のとある日で、それは僕の理想とはかけ離れてた。
残念ながら、その頃には彼女は僕と殆ど話もしないようだった。
そのまま翌日以降も続きを見ると、三日後の夢で僕は結婚記念日をすっぽかされてた。
未来の僕は彼女との結婚を酷く後悔していた。
なにか原因があるのか気になって、辛かったのを我慢して暫くこの未来を見続けてみた。
僕の独り言によると、同じ高校に入ったすぐの夏休み前に彼女から告白されたみたいだ。
僕はクラスでも可愛い彼女なので、喜んで交際したみたい。
大学は彼女から一緒に行きたいとお願いされて、自分のランクよりだいぶ低い大学に入ってた。
そして卒業後に就職してすぐに結婚したらしい。
ところが結婚して2年くらい経った頃に彼女は豹変して、仕事も辞めて家に居るのに家事もしなくなった。
自分は毎日ダラダラ過ごすのに、僕に対しては一流企業の友達と比較して愚痴だらけだ。
それでも僕は幸せな結婚生活になるよう3年間頑張ったみたいだけど、記念日にやっと予約した高級レストランをすっぽかされたらしい。
未来の僕のは一人で愚痴っているようで、メンタルもやられているっぽい……
僕は翌日から高嶺さんを徹底的に避けることにした。
そのおかげか、もうこの未来は見えなくなっていた……
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
次に見えたのは、結婚2年目のとある日。
相手は大学2年のときに知り合った女性のようだ。
名前は美咲、今僕の周りにその名前の女の子はいないから、将来出会う女性なんだろうな。
今度は嬉しいことにまだ新婚気分が続いているのか、かなり順調のようだった。
未来を見たときが夜だと、いつもベッドで仲良くしてたしね。
今の僕には刺激が強かったよ!
決して夜の生活を覗きたくて、暫くこの未来ばかり見てた訳じゃないよ?
この人との出会いを確認しておかないとだからね?
誰に言っているのか謎の言い訳をしながら毎日見ていたら、この女性とはどうやら本命の高校に落ちたあと滑り止めの高校で出会ったとのこと。
この未来の僕は、中3になったときから勉強に身が入らなくなったらしい。
この女性とは2年生で友達になったあと、彼女が当時付き合ってた彼氏に振られたのを慰めたのがきっかけとのことだ。
そして僕からのアプローチで付き合うことになったらしい。
その先の未来では美咲から「出来ちゃった」って言われて大喜びしている僕がいる。
これはいい未来だ! って大喜びしたんだけど一週間後に哀しい出来事が待っていた。
その日具合が悪くて早退して帰った未来の僕が見たのは、美咲が元カレと浮気しているところだった。
最悪なことに僕と付き合ったすぐあとからずっとで、お腹の子どもも元カレの子の可能性が高いとのこと。
修羅場のあと、未来の僕は心が完全に折れていた。
僕は本命の高校に絶対落ちないよう猛勉強を始めた。
一週間もすると、この未来からも逃げられたようだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
それから?
それから何度も何度もいろんな未来を見た。
他のクラスメイトや従姉、全く知らない女性、でも全部僕の考えるイチャイチャの夫婦生活とはかけ離れてたものばかりだった。
そのクラスメイトとは離婚してるし、従姉とは3年で家庭内別居状態、知らない女性とはギスギスしていつも怒鳴られる結婚生活とかなんだ。
これは僕の方に問題があるのだろうか?
そう考えてしまい、今の僕も心が折れそうだ。
当然クラスメイトとも従姉ともすぐに距離をとり、知らない女性対策として特徴をイラスト付きで残しておいたら、なんとかこの未来からも逃げられたようだ。
もしかすると、ウチの両親は絶滅危惧種のような存在なのかもしれない……
そんなふうに考えても仕方がないくらい、毎回僕はイチャイチャな生活を失敗している。
そんな未来ばかりを見てるうちに現実の僕は中学3年に進級していた。
そして受験生に入った僕はイチャイチャな結婚生活をもう諦めていたんだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
夏休みが終わる頃、僕はまた未来を見た。
僕は年老いて、病院のベッドにいた。
怠すぎてほとんど身体が動かせないし、喋ることも億劫のようだ。
どうやら死ぬまでそう遠くないのかもしれない。
そして周りを見渡しても誰もいない。
『これが孤独死ってやつなんだな……』
殺風景な病室をみて、僕は自分の未来が寂しいものと知った。
翌日も翌々日も見たくもないのに、孤独な僕の未来を見てしまう。
『僕の何がいけないんだろう?』
多分、これだけダメな未来ばかりだと自分に原因があるのだろう。
それでも托卵よりマシだ思うので勉強は続けた。
でも結婚相手がいなくても、見舞いに来てくれる人さえいないのは辛すぎるな。
この日から僕はできるだけ人に優しくし始めた。
お婆さんがいれば荷物を持ってあげて、妊婦さんには席を譲って、迷子には親を探す……
そういった当たり前の優しさだけなんだけどね。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そんなある日だった。
僕の病室が変わっていた。
殺風景だった病室には花が飾ってあり、ベッドの隣には白髪頭のお婆ちゃんがいる。
未来の僕のことを優しげに見つめて、時折り顔の汗を拭いたりしている。
もしかして? と思ったとき病室に年配の女性が入ってきた。
「お母さん、まだお父さんのところにいるの? もう言葉も聞こえてないんじゃない?」
ああ、この僕はかなり悪い状態なんだ。
お父さんってことは娘か?
なら僕はこのお婆ちゃんと結婚したのかな?
そう考えていたらお婆ちゃんが返事をした。
「たとえ聞こえてなくたって、お爺ちゃんが生きてるうちは出来るだけ側に居たいんですよ。幾つになっても一番大切な人だからね」
「ほんとお母さんって…… まさかこの年になっても全く変わらないとはね」
!!!
僕はびっくりした。
そこには僕の望んでいた未来があったのだから。
もうお爺ちゃんとお婆ちゃんだけど、元気だったときはイチャイチャ夫婦だったに違いない!
でもね、このあと何回もこの未来を見に来たんだけど、困ったことにお婆ちゃんがどこの誰だか全くわからないんだ。
だって、名前が一切出てこないんだよ。
息子夫婦や娘の夫、孫が5人ぐらい見舞いに来てるのに、みんな呼び方は「お婆ちゃん」か「お母さん」なんだよ!
その後、意地になって1ヶ月くらい粘ったら僕に一筋の光が射した。
ほとんど動かない僕の手を握って、お婆ちゃんがポツリと呟いたんだ。
「昔はお兄ちゃん、付き合ってからは篤樹さん。子供ができたらパパ、そしてお父さんだったね。今はお爺ちゃんだけど、貴方はずっと変わらず私の大切な人ですよ…」
そう言って小さく泣いている。
僕はびっくりした。
お兄ちゃん?
僕のことをお兄ちゃんっていうのは、妹の朝菜しかいないよ?
翌日、僕は市役所に向かった。
戸籍謄本を取るからだ。
「でも、お腹の大きい母さんと映っている写真も動画もあるんだよなぁ」
妹の朝菜が産まれたときのことは小さ過ぎて全く覚えてはいないが、その頃の動画をイチャイチャ夫婦が残していないはずは無い。
何回も見せられたしね。
結果はやっぱり実の兄妹だった。
まあ僕も朝菜も仲良しだけど兄妹以上の感情なんか無いしね。
そうなると、僕をお兄ちゃんって呼ぶ人は誰なんだろう。
もっとヒントをくれないかな。
でも残念なことに、その日の途中でこの未来を見ることは出来なくなってしまった。
というのも、この未来が消えたわけじゃなくて未来の僕が亡くなったんだ。
僕が居ない場所の未来は見えない……
だからこの未来への道筋は永遠に迷宮入りになってしまった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その日から僕は結婚の未来を全く見なくなった。
いや、見れないのかも知れないな。
多分だけど、あの未来が続いている限りは逆戻りした未来が見れないからだと思う。
昔みたいに結婚以外の未来は見るしね。
その後も僕は勉強も頑張っているし、人に優しくするようになった。
あのお婆ちゃんが凄く優しそうだったから、あの未来の僕も優しかったに違いない。
それだけが未来の僕に繋がるかも知れないからね。
『あれは高田さんちの美由ちゃんかな?』
最近僕の家の二軒先に引っ越してきた女の子。
越して来たばっかりの一ヶ月前くらいに、迷子になってたのを助けてから懐かれた気がする。
「どうしたの美由ちゃん、お母さんは?」
「あのね、ママがまた迷子になっちゃったからミユが探してあげてるの。アツキも手伝って」
美由ちゃんは小5のはずだから、その年でまた迷子になっているのが恥ずかしいのだろう。
今日はスマホも忘れてたみたいだし、ショッピングモールは広いからな。
特に女の子は危ないしね。
誰にでも優しいムーブの僕は美由ちゃんの言葉には突っ込まないでお母さんを一緒に探す。
しばらく探して無事見つけたあと、ミユママからまたあるかも知れないからって、ミユママと美由ちゃんの電話番号とLINEを交換することになった。
美由ちゃんはなかなかの美少女でミユママはすごい美人だから、美由ちゃんも数年ですごい美人になると思う。
でも、残念ながら僕の結婚相手では無さそうだけどね。
-アツキ、ヒマだから遊んで-
-アツキ、早くきてね-
「アツキ遅ーい、ミユ待ったんだよ!」
美由ちゃんはLINEでも面と向かってでも、僕のことをアツキと呼び捨てにする。
今まで一度もお兄ちゃんと呼ばれたことはなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
早いものであれから5年が経ち、僕はもうすぐ大学2年生になる。
僕にとって避けたい未来があったため、勉強を投げ出すことはなく本命の高校、本命より上の大学に入れた。
不思議なのは未だに結婚の未来を見ていないんだ。
だけど思い当たる人も全員いなくなっちゃったんだよな。
妹以外に僕のことをお兄ちゃんって呼んだ子は二人いた。
そう、過去形なんだ。
一人は昔荷物を持ってあげた、お婆ちゃんの孫娘。
当時中1と2コ下の女の子だった。
しばらく遊んであげたりしたんだけど、美由ちゃんが突撃してくるのが苦手だったのか数ヶ月で疎遠になった。
もう一人は高校の友達の妹。
しばらくあざとい感じで僕のことをお兄ちゃんと呼んでいたけど、文化祭で美由ちゃん母娘を呼んでから寄ってこなくなった。
それで今日は美由ちゃんが高校の制服をお披露目するからって呼び出されている。
相変わらず酷いLINEでね。
-ロリコンのアツキに美由の制服見せてあげる-
-どうせアツキはヒマなんだからすぐきてね-
うん、お兄ちゃんどころか年上扱いじゃないよな。
でも可愛いから断れないんだけどね。
そう思って急いで美由の家に行くと、ミユママから部屋に行くように言われた。
「美由、入ってもいい?」
「はい、どうぞ」
あれ、珍しく大人しめの返事だなと思いながら部屋に入って驚いた。
そこにはサラサラのロングヘアをハーフアップにして、薄っすら化粧した美少女と美女の中間くらいの、普段とは違うお淑やかな女の子がいた。
「あのね、アツキに一番最初にに見てもらいたかったんだ。どうかな?」
どうかな?って聞く必要あるのかって思うくらい可愛かったが、いつになく真剣な表情を見ると真面目に応えないとなって思う。
「正直に言って見惚れたよ。よく似合ってるな」
美由は嬉しそうに笑った後、また真剣な顔で僕に言った。
「篤樹さん、私は小さいときから貴方が大好きです。私と付き合ってくれませんか? お願いします」
どうしよう……
正直に言うと僕はこの子が大好きだ。
はじめは可愛い妹が増えた感じだったけど、雑な呼び方をされても雑に扱われたことは無いし、そんな性格も魅力の一つだろう。
でも、これを受けるとあのイチャイチャ夫婦の未来は多分壊れるんだよな。
僕が考えている時間が断るためと思ったのか、美由が泣きそうな顔で叫んできた。
「美由じゃ無理なの? 美由はアツキじゃないとダメなの!」
ああ、僕は馬鹿だな。
あの未来だけが良いものと決めつけ過ぎだったよな。
自分が好きな子が好きだって言ってくれるんだ、応えないと絶対に後悔する!
「えーと、美由。結婚が前提だったら喜んでお付き合いしたい。僕も君が大好きだか……」
言い終わる前に美由が抱きついてきて口を塞がれた。
そのまま何分も離してくれない。
これほど熱烈な愛情を向けてくれる可愛い女の子と、僕はこれから人生を歩んで行こうって思ったんだ。
重いのはわかっているけどね。
離れ難くなった僕たちは、なかなかお互いを離すことが出来なかった。
そうしているうちに結構な時間が経っていたことに気付いた僕は、慌てて帰ることにした。
「あの、どうも、お邪魔しました…」
「き、今日は来てくれて、あ、ありがとう」
ミユママが見ているので、二人とも何故かしどろもどろになってしまう。
「あら、もういいの? 玄関でさよならのチューしてから帰るのよ」
はい、顔から火が出ました。
ミユママには敵わないと思ったよ。
もちろん美由は玄関を出るときにチュッってしてくれた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
あのあと、僕は美由との未来を見たいと願っているのにずっと見れていない。
どうやら結婚相手との未来を見れるのは、結婚予定の彼女ができるまでなのかもしれない。
僕は見れないなら気にしないで、美由と頑張って素晴らしい未来を作って行くんだって、毎日を大切に生きることにした。
「美由、やっと付き合うことができたのね」
「うん、これからは篤樹さんって呼ぶの」
「そうね、いつまでも『お兄ちゃん、お兄ちゃん』じゃ問題あるもんね」
「ママ! それはお兄ちゃんには内緒だからね!」
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