清々しい朝 きっと今日はお客が来るはずだ
テマキズシ
予想外のお客様
何故かわからない。だが偶に人間には訪れる。
清々しい目覚めというものが。
私は目が覚めると、眠気の全てが吹き飛んでいた。普段はふらふら眠気を押しこらえソファから降りていた。だが今日は違う。
鼻歌を歌いながら窓を開ける。見渡す限りの青空。まるで海釣りのときに眺めた広大な海のよう。広々とした青空は私を子供時代に戻してくれる。
青春という言葉に何故青が入っているのか。今の私は心で理解した。
鳥達が目覚めの歌を歌っている。普段は鬱陶しく思うこの声も今は別物。私の心を包み込み、温かな気持ちにさせてくれる。
メロディは静かで緩やか。まるで広大な自然の中に居るようだ。普段は道路にガスを振りまく自動車が珍しく1台もいないからか、歌は途切れること無く体に染みていく。
深呼吸し、体中に清々しい空気の旨味を取り込む。そして洗面所へと歩き出す。
私の住むこの家は探偵事務所としても使っている。理由はシンプル。金が無いからだ…。
探偵事務所を初めて十年。以前はそれなりに繁盛していた。しかし助手が実家に帰ることになり退職。そして追い打ちをかけるようにマスゴミ共が事務所の悪い噂を記事にしやがった。
嘘のわんぱく山盛りセット状態のその記事を見た人達は、更に盛った悪評をばらまく。お陰でお客様が誰も来ない。
だが何故だろうか。今日はお客様が来るような予感がする。目覚めが良かったからだろうか。ポジティブな心が全身を支配している。
顔を洗い終えると気分は更に爽快。眠気なんて無いというのに何故なのだろうか?
だが今はそんな事を考えれる状態ではない。
最高の気分✕最高の気分。
つまり私は超最高の気分へと進化した。テンションが振り切れ、普段ならダメージを受ける空っぽの冷蔵庫を見ても無傷のままだ。
いつも通り朝ご飯を抜き、ソファへと座る。その時、今日が最良の日だと証明する勝利のファンファーレが鳴り響く。部屋全体に鳴り響くピンポーンという音。
そう。来客の合図。インターホンの音だ。
ドアが光り輝いている。窓からは更に陽の光が差し込み私の勝利を祝福する。
体が軽い。一歩進むたびに体が十キロずつ痩せていくかのよう。家賃は払った。セールスマンはぶん殴ってから誰も来なくなった。友達なんて存在しない。助手の実家は海外。
つまり答えは一つ。お客様のご登場だ。
ドアを開けお決まりの言葉を口にする。暇な時心を誤魔化すためによく口にしていたこの言葉。お客様が来なくても練習していたかいがあり接客業の見本のような声が出る。
「お待たせしました!罪冤探偵事務所の所長!罪冤です!」
何故なのか分からない。だが扉を開けた瞬間。光が消え眼の前には闇が広がっていた。
体が硬直する。違う。これはただの闇ではない。比喩表現では無く本当に闇が眼の前に広がっているのだ。
そして恐る恐る顔を上げると………私は全てを理解した。理解してしまったのだ。眼の前に居る者の正体を。
全身はまるでマリモのように毛むくじゃら。野生特有の獣の香りは私の鼻を殺さんと襲いかかる。筋肉質の体はプロレスラーや相撲レスラーを一撃で粉微塵にできるであろう。鼻息からは気性の荒さが現れている。
眼の前に居るのはジャングルの王。最恐の生物。ゴリラだった。
清々しい朝 きっと今日はお客が来るはずだ テマキズシ @temakizushi
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