言葉はいらない

上田 由紀

言葉はいらない

ドアを開ける。

胸が高鳴る。

その瞬間から、2人だけの時が動き出す。


「遅れてごめんね」


そう私が言うと、彼はふんわりした笑みを広げ、私を迎え入れる。

それだけで、私は満たされる。

途端に彼への想いが溢れ出す。


彼に導かれ、向き合う。


「真希……」

彼が私の名を呼ぶ。


「ずっと、待ってたよ」

彼の熱い眼差しに射すくめられた。

私は一時めまいを覚える。そして次第に、歓喜に包まれる。


2人の視線が絡み合う。

彼が私を欲しているのが伝わってくる。

もう、言葉はいらない。


不意に彼が立ち上がり、私の後ろに回り込む。

後ろから彼の腕が、私を包み込む。

彼の体温が伝わり、全身に広がっていく。

私の髪を撫でる彼の手から、抑えきれぬ想いが伝わってくる。

湧き上がる幸福感に、私は身をゆだねた。


もう、言葉はいらない。


首を横に向けると、そっと彼の顔が近づいてくる。

私は彼へと唇を寄せ、目を閉じる。


もう、言葉はいらない。




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言葉はいらない 上田 由紀 @1976blue

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