転生したのに落ちこぼれ!?チートになれない俺の異世界転生記
@senka_72
第1話
その日は痛い程に冷え込んだ朝だった。
氷のように冷たい竹箒から手を離し、優しく息を吹きかける。
吐く息は白く、僅かに顔を出した朝日に照らされ、朝靄のように広がっていく。
俺の家はかなり有名な寺らしく、週末ともなると観光客が絶え間なく訪れる。
毎朝5時に起きて広い境内の掃除、7時と17時に鐘を3回、季節ごとに咲く色とりどりの花を手入れ、長期休み等の繁盛期はイベントの手伝い、おまけに後継者教育。
友達と遊ぶ時間なんて無いし部活動も委員会許されなかった。まぁ、そもそも友達居ないんだけど。
掃除を終えた俺は高校の制服に着替え、誰かが用意してくれたおにぎりを頬張る。
母親は俺がまだ幼い頃に出て行った。だから俺にとってはこれが母の味だ。
未だに顔も名前も知らないが、住み込みで修行している弟子の誰かだろう。
最近はどうすれば寺を継がずに生きていけるか、そればかり考える。
そろそろ坊主頭以外にしたい。
友達欲しい。
学生らしく遊びたい。
青春したい。
モテたい。
考え出したら止まらない。
頭を振って雑念を飛ばす。
靴を履いて外に出ると雪が舞っていた。
道理で冷えるわけだ。
寺というのは修行のためとかいうクソッタレな名目で山に建てられることが多い。
もちろん、うちも例外ではない。
だから学校へ向かうために街に出なくてはいけないのだが、これがまた俺の自己嫌悪を増幅させていく。
コンビニ前でたむろする流行りの髪型をした奴らだったり、いかにもカップルだろう距離感でイチャつく学生だったり、楽しそうに傘を振り回すガキどもだったり。
何故こんなにも“青春”が溢れているのか。
俺だって...
俺だって...!!!
モテそうな髪型にしたいし、放課後に集まってカラオケとかしたいし、汗を流して部活動やりたいし、夏休みに彼女と夏祭りで花火とか見たい!!!!
なんでなんだよ!!!!
嫉妬と自己嫌悪で醜く歪んだ俺は進路を塞ぐ少女を睨みつける。
少女は慌てた様子で歩道の端に飛び退いた。
まさに少女がいたその位置に、俺が足を下ろしたその瞬間。
少女の驚愕に満ちた目を見た気がした。
直後、体に強い衝撃が走る。
一瞬遅れて誰かの叫び声が耳に届く。
前を向いていたはずなのに空が見える。
おかしいな
まだ、朝なのに…
夕焼け空みたいに…あかい……
「…で、ここどこ?」
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