世界救済の魔王転生
桜井正宗
第1話 寝取られ転生
『……コウより太くて大きい……』
その言葉を耳にした瞬間、俺の脳は破壊された。
付き合っていた彼女がよりにもよって俺の部屋で……見知った顔の男と寝ていた。
何度何度もキスを交わし、触れ合っていた。俺とはしない激しいプレイに興じ、更に俺の心を破壊しつくした。
あぁ……終わった。
もうこの世界に未練はない。
俺はマンションから去り、道路へ。
「……彼女を寝取られた。同じ会社の先輩に」
なぜ、なぜあの男に股を広げたんだ。
クソ、クソォォォォ……!!
涙が止まらなかった。
目の前が涙で歪み、
『――グシャ』
気づいたら、俺の腹から血がドバドバ出ていた。
え、なんだこれ…………?
よく見ると、それは倉庫とかで使うフォークリフトの爪だった。
俺はいつの間にか道路を歩いていたようで……公道を走っていたフォークリフトがそのまま突っ込んできて、腹部を貫通したようだった。
「…………がはっ」
一瞬で目の前が真っ暗に――なった。
・
・
・
『――契約をしようじゃないか、コウ』
俺の名前を呼ぶ黒い影。
小さくて子供のようなカタチ。でも、輪郭だけだ。
まるで幽霊みたいだなと俺は思った。
あぁ、死んだのか俺は。
「あんたは?」
「私は魔王さ」
「魔王?」
「ガルガンチュアと名乗っておこう」
と、魔王と名乗る影は笑う。……てか、俺は死んだんじゃないのかよ。
もしかして、これは『転生』ってヤツか?
本当にあるなんてな。
「そんな魔王が俺になにをしてくれるんだ?」
「転生さ」
「でたでた。でも俺はもういいんだ……。彼女を寝取られて、生きる希望なんてなかった。無になりたい。貝でもいい」
「異世界でやり直せばいい。世界を救ってくれ」
「なんだって?」
詳しいことを聞こうとしたが、視界がグニャっとなっていた。
……ッ。なんだこりゃ!
「契約は完了だ。コウ、お前は赤ん坊からやり直すんだ。ある貴族の家に生まれ、魔王の力を駆使して世界を救済するのだ」
意味が解からん。どうして俺がそんな面倒なことを……!
――いや、でもいいか。
現実は腐っているし、もう戻りたくもない。
死ぬくらいなら、いっそ転生でもなんでもしてやるッ!
そう願うと、俺は意識を――失った。
◆
【ジマー領:ラザロ家】
「エルゴ。あなたの名前はエルゴよ」
……エルゴ?
誰のことを言っているんだ、この綺麗な女性は。
あれ、俺は……。
えっ、赤ん坊の姿に……?
丁度、鏡があった。そこには明らかに赤ん坊の姿が映し出されていた。
俺はどうやら、本当に転生してしまったらしい。
マジかよ。これからどうなってしまうんだ俺は。
「……あぅあぅ」
「まあ、エルゴ。返事をしてくれるなんて、ママは嬉しいわ」
母親らしき人は、俺に愛情を注いでくれた。
その日から毎日のように。
こんなに愛される日々を送れるなんて、思いもしなかった。
俺は三歳、五歳と年齢を重ねていき――そして、十五歳となった。
すっかりラザロ家の貴族エルゴとして、立ち振舞っていた。
この家は、ペンローズ辺境伯という偉大な父の実家。俺はその家の長男として生まれたようだった。
かなり裕福で不便なく、何不自由なく暮らせていた。
こんな幸せでいいのかと思った――ある日。
邸宅の庭で“声”が聞こえた。
『人生を楽しんでいるようだな、コウ』
「この声……魔王ガルガンチュアか!」
『十五年ぶりだな』
「そろそろ世界を救えってか?」
『そうだ。約束の時だ。このままでは勇者によって世界は滅ぼされるのだ』
「勇者が? 待て待て。普通、勇者は世界を救う存在だろう?」
『残念だが、この異世界ではそうではない。勇者ニコライは、闇堕ちした“闇の勇者”だ。すでに大陸の一部を掌握し、支配下に置いている』
そういえば、最近になって親父がそんなことを教えてくれた。
世界は平和に見えて、実はそうではないと。
そうか、勇者ニコライというヤツが秩序を乱しているんだな。
「どうすりゃいい?」
『簡単さ。お前には“魔王の力”がある。それを使え』
「魔王の力?」
『イメージしろ。そして作り上げるのだ……魔王の剣を。勇者が支配するモンスターを倒せ』
そうガルガンチュアが説明する中、上空から巨大な鳥が奇襲してきた。……マ、マジかよ。このタイミングで襲われるとか――!
いや、俺ではない。
丁度、庭に出ているメイドを狙っていた。
「きゃあ!!」
助けなきゃ!
あのメイドさんは、子供の頃から俺にずっと優しくしてくれた人。
「おい、助ける方法を教えろ!」
『あれは勇者ニコライの操る鳥人モンスターだ。倒せ』
倒せって、助言になってないぞ、それは!
ええい、イメージだったか!
剣をイメージして……こうか!?
すると、目の前に黒い剣が現れた。真っ黒でビビった。なんだこりゃ、禍々しいな。まさに魔王の剣って感じで不気味だ。
けれど、今はこの武器に頼るしかない!
「くらえッ!」
鳥人モンスターへ突撃して、俺は剣を振るった。
すると一撃でモンスターは滅んで、塵となった。
『……ギャアアアアアァァ……』
よ、よかったー…親父から剣を習っていて!
なんとか倒せたぜ。
「ありがとうございます! エルゴ様!」
「いいんだ。君にはお世話になってるし」
「坊ちゃん……こんな私を守ってくださるなんて感激です」
ほろりと涙を流すメイドさん。本当によかった。
……そうか、これが人助けってヤツか。気持ちがいいな。
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