4章 界世

薄暗かった森はあっという間に闇に包まれる。


そっちの俺等はどうだ

こっちのあなた達はどういう出会いをしたのか

雨音と春風が優しく響く中、3人の楽しげな声が続く。


少々立ち話しすぎたかもしれない。

シャン達と話し込んでると、プラパさん達がやって来てファイも後からやってきた。

エルさんには、いつまでたっても帰ってこないから心配した。とまた怒られてしまったわ。



森に笑い声が響く。


「あれ?晴れてきた?」

気がつけば雨は止み、月明かりが泉を照らしている。




今この泉に飛び込んだらきっと帰れるだろう…


そう思う前に気泡が上がって来た、そのうち激しく水面が波立つ。

よく見ようと光魔法で照らし出す。


「…っは!」


鏡を見ているのか、私と同じオレンジの髪


「ぷは!」


と、ピンクに銀色に青に緑…

思ったより多くの人達が水上に上がってきた。



「何だ何だ、多いな!」


皆を引き上げ濡れた服が乾くように火をおこす。


「グラズ!本物のグラズだな!好きな食べ物は?!」

ずぶ濡れのファイが肩を強く掴み変な質問をする。


「わー!本当に私だ!」

「本当にそっくりだね」

プラパさんらは興味心身。


ピースさんらも戸惑っているようだ。


「え」

「え?」

「俺はいないのか」

「…恐らく私ですよ」

「は?」

エルさんの姿に困惑するエルゼさん。受け入れがたいそうで、何故だどうしてだと賑やかに話してらっしゃる。



そんな中、火に当たりながら俯いている彼女。


「初めまして、貴方がこちらのグラズですね」

「は、はい」

なぜかビクビクしながら握手を交わす。

そのあとシャンが彼女に話しかけていた。


これが私なのか。



火を焚いていても寒さは緩まないため一度それぞれ着替えをしてくることになった。

私は先に科学部に戻る。




晴れ間は一瞬でまた雨が降り出す。



着替えが終わり、皆部屋に戻ってくる。

今の状況を説明し、情報を共有する。


「そういえばなぜグラズさん以外も来られたのですか?」


エルさんの言う通りだわ、来るなら私だけで良かったはず。

物の割合が多い部室で10人と2人は狭苦しい。


「グラズが心配だから」

「好奇心」

想定内の解答である。


後の2人はほぼ巻き添えだとか、皆行くからとかだそうだ。


「まぁでも、天気予報では明日は夜まで晴れるそうだから問題なく帰れるでしょう」


どうも、今飛来してる彗星と月と彗星の破片が沈む泉とが共鳴しあってゲートができているため、彗星が遠のく明後日までに帰れれば大丈夫だそうだ。



次の本題に移り、今の状況と明日の事を話す。

カメリアさんはとある森の中にある医院、と名乗る研究所に匿われているらしい。


博士に会い、引き留める組はこちらのファイさんと私2人。

裏でカメリアさん救出組、元のファイとこちらの私、エルゼさん、元のピースさん。

制御室に潜り込みシステム面でサポートを試みる組、プラパさん2人とエルさん。

外で待機組、こちらのピースさん、シャンにパディ。


ホワイトボードに書き出すが、文字で書くと非常にややこしい。でも、とりあえずは伝わったらしい。



移動手段は場所も明確でないのと、大人数なためこちらのピースさん運転のトラックで向かう事に。普通なら未成年は運転出来ないのだが…


「なぜピースさんは運転できるのですか」

「しかもなんでトラックも持ってるの?」

比較的仲が良さげなエルさんも知らない様子。


「家が農業、酪農してるからだけど」

「え?皆持ってないの?」



考えるのをやめる必要があるそうだ。



その後も少し話し合い、その日はそれぞれ寮に戻ることにする。


説明や説得に非常に疲れたわ。

特に元のファイがなかなか賛同してくれなかったが、ふざけて死ぬ時は一緒ね。なんて言ったらやっと黙ってくれたのである。


もちろん死ぬ気なんてない。

…少々意地悪な事言ってしまったかしら





自室に戻りお風呂の順番など業務的に決め、終わらす。



「あの、変な事聞いていいですか?」

ただ作業の音だけが響く沈黙を彼女が終わらす。


「どうぞ」

「その…喧嘩というか、くだらないことで言い合ってしまって、あの…」


どうも緊張して言葉が出てこないそうだ。

要するに、親しい人とつまらない喧嘩をしたけど、謝る機会を逃し日が立つに連れ謝りづらくなってしまったらどうするか?と聞きたいのかしら?


喧嘩は立場上ほとんどした記憶がない。

そういうのは同レベルの人間関係じゃないと成立しないと思う。

出来る相手といえばあの子達ぐらいかしら


そう言えば最近、学校行事一緒に行こうと誘っときながら来なかったことを少し嫌味っぽく言ってしまった事があったかしら…

喧嘩といえば喧嘩かもしれない。



「そうですね。どうして喧嘩になってしまったか自己反省して、次会う時に誠意を込めて謝罪することですかね」

相手が欲しい言葉がこれであっているかわからないけれど、これしか思いつかない。


「なにをお悩みかわかりませんが、相手が何を思っていても、まずは自分の気持ちを提示しないと変わらないと思います」


「そうですよね」



困り眉のまま微笑む。

話も準備も終わり、電気を消して眠りに付く。







ーーーーーー

謝ってしまえば楽な事。

謝ってしまえばすんなり笑っていつも通りになる事。

わかっているんだ

でも

次会うまでがままならない。









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