ヒトリ達日誌 泉

ラナ

1章 終わりへ

まだ雪の残る月夜の森。

ここは学園が管理する裏の森。

実戦科の訓練所としても使われているとこである。



そして私は今その実戦科の友人の頼みで夜行訓練の付き添いで逃げる役をしている。


私は進学科ではあるが、魔法実技が得意という事で報酬ありで受けることになった。

お陰様で良い鍛錬になる。

…のは前置きで、その後のデザートを奢ってもらうのが楽しみなだけである。



けれど少し失敗した

コンパクト型糖分の在庫を補充するのを忘れていたのだ。



私の体は少し周りと違うのが魔力源について

基本的に皆は自然に発生している魔素を扱って魔法を発現させる。が、人によっては私のように自ら魔力源を生み出せる体質の人もいる。

謎はまだまだ多いけど、大体は体内の何かを消費して生み出されていると考えられているらしい。

私は後者で、食べ物によるエネルギー

糖分がメインで消費されているらしい。



…このまま魔法を無造作に、かつ体力を無駄に使うと低血糖で命が危ない。


そんな事を考えながら走っていたら崖に追い込まれてしまった。

振り返ると三人ほどにじり寄ってくる


崖の下は水面に月が映る。

泉?池?こんなところにあっただろうか?

どのみち崖自体も2・3mほどだ。ここから飛んでも…


ズルッ



様々な考えを巡らせて行動に移す前に不意の浮遊感。足を踏み外してしまった

対処する前に水に打ち付けられる。




思ったより深い泉に、泳げない私はとりあえず水面を目指す。



誰かが呼んている


「グラズさん!これを掴んで!」

眼の前に木の棒を差し伸べられてそれをつかみ岸まで引っ張ってくれた

その少女は銀色の髪をサイドに高く結んだ小柄な人だ。

…さきのメンバーにこんな人は居ただろうか?

よく見るとスミレ色を基調とした、俗に言うロリータを着ている。


…こんな人学校に居ただろうか??


「大丈夫ですか?よかったらどうぞ」

混乱をよそに彼女が使ってたケープを掛けてくれた。


春が近いと言っても夜風はまだまだ寒い。

この寒さも確かに命取りだ。


「有難う御座います」

ところで貴方はどなたでしょうか?

そう聞く前に何かが横を掠める。


矢だ。


「グラズさん。とりあえず逃げてください。向こうでプラパさん達がいるはずです」

「貴方はどうするのですか?」

「あとから行きますよ」

微笑みながら静かに目配りをすると彼女は魔法陣からライフルのようなものを取り出し矢が飛んできた方へ向ける。

明らかにさっきとは違う空気。

素直に彼女の指示に従うように走る。




言われたように走る、

その間も思考が巡る。


さっきの人は本当に誰か。

そしてさっきの矢。

その先に3.4人は居て彼女は本当に無事なのか。

それに、その先に居たのは…


私の幼馴染のファイに似た人

確かに一緒に夜行訓練をすると言っていたが

あまりにも殺気立っていた様に見えた。



まさか彼に限ってそんなことは

あり得ない


信じたくない。




そのうち後ろから追手が来てしまう。


「ウォーター!」

敵の足止めを最低限の魔法で済ます。

ワープを使いたいが、プラパさんと合流するように言われている。


プラパさん。彼女の名前は知っている。

同じクラスメイトで明るい人だ。


でもなぜ彼女の名前が上がったのか、想像もつかない。

分からないことが一気に来る。



だいぶ走っただろうか

追っ手は巻けただろうか。



だんだん息が上がる

だんだん視界が回っていく

寒いのに汗が止まらなくなる

鼓動も大きく響く


低血糖の症状か


ここまで酷くなるのは初めてかもしない。


足がもつれてコケてしまう。

立ち上がるのも、気を持つのも一苦労だわ。



ふと、手を見ると雫がついている。

胸が苦しいのも低血糖の症状か…


「…」


あの人の名前を呼んだら助けに来てくれるだろうか。

そんなわけがない、考えるのも嫌になるほどの頭痛と目眩。



顔を上げると前方に人影が見える


「来ないで…」

何かを言っているのが聞こえるが頭に入ってこない。

逃げないと…


立ち上がろうとするとその人は走ってくる。


気を保てない。


逃げられない。



そのまま目の前が遠のく

今日の月はこんなに明るかったっけ





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