To a loved one

エピローグ

第46話

黒い服を着た美女が目を閉じて、手を合わせていた...。

ウェーブがかった肩までの茶髪が、良く似合う美女だ。


━━ここは、長野県上田市にある霊園。

ある墓石の前で、その美女は手を合わせていた。


《真田家之墓》


と、墓石に彫られていた。

姉の純奈と、妹の未央奈が眠っているお墓である。


━━そう、その美女とは、真田美彩である。

美彩は、今年で二十八歳になる。

あの大坂の陣から、十年の月日が経過していた。

女子高生の戦乱の世も終わり、平和な日常生活に戻っていた...。


━━今日は5月7日、未央奈の命日である。


━━美彩は、いつも気になっている事があった。

命日に墓参りに来ると、先に誰かが二人くらい来ているらしく、いつも花が供えられている。

一つは《スノーフレーク》という、ヒガンバナ科の白くて小さい、スズランに似た花。

もう一つは《ガザニア》という、キク科の黄色やオレンジが鮮やかな花だ。


(誰だろう...?)

美彩は、不思議に思っていた。

でも今日は、まだ来ていないようだ。


━━すると、向こうから、小さな女の子を連れた女性がやって来た。

肩までの黒髪のセミロングが似合う美女だ。

左手は女の子と手を繋いでいるが、右手には《ガザニア》を持っていた。


「!?」

美彩は、その女性を見た。


「美彩、お久し振り。」

その女性は、美彩に声をかけてきた。


「な、七瀬様...!?」

美彩は、驚いた。


━━そう、徳川七瀬である。


「同級生なんだから、七瀬でいいよ。」

と、七瀬は微笑した。


「あ、はい...。」

美彩は、女の子を見てから、

「ご結婚されたんですか?」

と訊いた。


「うん、でも離婚して、今はシングルマザーだけど。」

と、七瀬は答えた。


「可愛い女の子ですね。」

美彩は七瀬を見てから、女の子に、

「お名前は?」

と訊いた。


「徳川未央奈(とくがわ・みおな)、五歳です。」

と、女の子は答えた。


「!?」

美彩は驚きを隠せず、

「み...お...な...。」

と、確かめるかのように言った。


そして、美彩は七瀬を見た。


「私の...大切な人の...名前...。

もっと...色々な話を...したかった...。

命懸けで...戦乱の世を終わらせようとした...。

真っ直ぐな心で...私を救おうとしてくれた...。

日本一(ひのもといち)の...女子高生の...名前...。」

と、七瀬は涙を浮かべた。


「み、未央奈...。」

美彩も涙ぐんだ。


「なあに?」

未央奈という少女は、美彩を見た。


「ごめんね、あなたも未央奈ちゃんだもんね。」

と、美彩は微笑した。


「ママ、何で、このお姉ちゃん泣いてるの?」

未央奈は、七瀬を見た。


「.....。」

七瀬は、黙って首を横に振った。


━━七瀬は、ガザニアを供えて、未央奈達の墓石に手を合わせた。


「そのお花、七瀬さんだったんですね。」

と、美彩が言った。


「ええ。」

七瀬は、墓石を見て、

「花言葉は《潔白》・《きらびやか》・《あなたを誇りに思う》。」

と、噛み締めるように言った。


「では、スノーフレークも七瀬さん?」

と美彩が訊いた。


「スノーフレーク?

それは、私じゃないわ…。」

と、七瀬は答えた。


「なら、一体...誰が...?」

美彩は呟くように言った。



━━そんな二人のやり取りを、一人の美女が遠くから見ていた。

そしてその美女は、静かに目を閉じて祈りを捧げた。


━━二十五、六歳だろうか?

肩までの黒髪のストレートが似合う美女で、その手には《スノーフレーク》の花を持っていた!!

スノーフレークの花言葉は、《純粋》・《純潔》・《汚れなき心》・《皆をひきつける魅力》である。


━━その美女の首には、金の十字架のネックレスが輝いていた...。



《終》

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る