薩摩おごじょ

第38話

岐阜県美濃地区関ヶ原。


━━西軍は、ほぼ壊滅状態だった。

島津怜奈の軍も周囲を東軍に囲まれ、退路を絶たれてしまった。


「ここは、強行突破するしかありません!!」

怜奈は、家臣達に言った。


━━そして怜奈達は乗り物を捨てて、敵陣を強行突破した。


文武の武が桁違いに長けている怜奈は、その強さから《鬼島津(おにしまづ)》と恐れられている。

本来、そこら辺の女子高生が勝てる相手ではない。


この行為は、後に《島津の陣中突破(しまづのじんちゅうとっぱ)》と呼ばれた。

怜奈達は、徳川七瀬の陣まで迫ってから、急に進路を変えて南下した。

それに対して、七瀬の軍が追撃をして来た。


━━突然!!


怜奈達の家臣の一部が、その場に留まった!!


「!?」

玲奈が気付いて、

「どうしたんです?」

と訊いた。


「怜奈様...。」

その家臣は、怜奈を見て、

「怜奈様は、お逃げ下さい。」

と言った。


「怜奈様...今までありがとうございました...。」

別の家臣が頭を下げて、

「怜奈様のおかげで、飼い犬の出産に立ち会えました。」

と言った。


「あなたは...。」

怜奈は、すぐに気付いた。


━━あの時の女生徒だ。


今度は、別の女生徒が怜奈を見て、


「私、存在が薄くて...中学生の時に、みんなから“透明人間”って呼ばれて、馬鹿にされてました...。

友達もいなくて、高校に入っても、ずっと一人ぼっちでした...。

携帯なんて持ってても、誰からも連絡なんて来ない...。

そう思ってたのに...今年の私の十七歳の誕生日に...初めてメールが来たんです。」

と言って、メールの画面を怜奈に見せた。



『京子様


17歳のお誕生日おめでとうございます!!

(*'∇')/゚・:*【祝】*:・゚\('∇'*)


日付変わってすぐに送ったので、

一番におめでとう言えましたかね?

(*^^*ゞ


私は一応は大名ですが、京子さん達に

いっぱい迷惑をかけてますね...。

ごめんなさい。

m(。>__<。)m


京子さん達がいてくれるから、

私は安心してます。

ありがとうございます!!

(*´︶`*)♡Thanks!


至らぬ所ばかりの私ですが、

これからもよろしくお願いします。

(人´ω`*).☆.。.:*・゜


れな 』



「怜奈様は、私の存在に気付いてくれました...。

嬉しかったです...。」

その京子という女生徒は、涙を浮かべていた。


「それなら、なおさら...。」

怜奈が促す。


「行けません。」

女生徒達は拒否した。


「大名である、私からの命令です!!」

と、怜奈は強く言った。


普段は、あまり大名である事をひけらかさない怜奈であるが、こうでも言わないと動きそうにない。


「聞けません!!」

「お断り致します!!」

と、女生徒達は拒否した。


「受けたご恩は、きっちりお返しする...。」

京子は怜奈を見て、

「それが、“薩摩おごじょ”のプライドです!!」

と言った。


━━薩摩おごじょとは、鹿児島県の女性を指す言葉で、《気立てが良い・優しい・筋の通ったしっかり者》などのイメージがある。


━━すると別の女生徒が、

「怜奈様、参りましょう。」

と、怜奈の手を引いた。

「ちょ、ちょっと...。」

と言いながら、怜奈は連れて行かれた。


女生徒達は、数十名の女生徒が立ち止まって死ぬまで相手を食い止め、その女生徒達が全滅したら、また別の女生徒達数十名が、命懸けで足止めをするという戦法を繰り広げた。


━━途中で、七瀬より追撃中止の命令が下され、怜奈は逃げ切る事が出来た。


三百人程いた女生徒も、残ったのは怜奈を含めて八十名程だった。


島津怜奈が、今まで家臣の女生徒達にかけてきた優しさや恩を、彼女達は命懸けで返した。

誰かに命令された訳でもなく、自発的に怜奈を逃がそうと、誰からともなく始めたこの戦法は、後に《捨て奸(すてがまり)》と呼ばれた。



「うわぁぁぁぁぁっ!!」

逃げ切った怜奈は、大声で叫んで泣いた。

「私が...あの時...くだらないプライドで出陣しなかったから...。

あの時、すぐに出陣してれば...こんな事には...こんな事には...。

皆さん...申し訳ございません...でした...。

私のせいで...。」

怜奈は自分を責めた。


「怜奈様のせいでは、ございません!!」

一人の女生徒が怜奈を見て、

「むしろ、あのような無礼な態度を取られたのに、ノコノコ出陣していたら、私達は怜奈様を軽蔑していたかも知れません...。

怜奈様のご判断は、間違っておりません!!

彼女達は、怜奈様に恩返しがしたかったのです。

彼女達だけでは、ございません...。

私達も...怜奈様を命懸けでお守り致します!!」

と言った。


筋の通った薩摩おごじょ達は、維持とプライドで怜奈を守りきった...。

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