官位

第34話

「未央奈、よく来てくれましたね。」

豊臣麻衣が、笑顔で出迎える。


「麻衣様、お久しぶりです。」

真田未央奈は、頭を下げた。


「改めて宜しくお願いしますね。」

と、麻衣が言った。


「こちらこそ、お願い致します。」

再び、未央奈は頭を下げた。


「そんなに緊張しないで。」

と、麻衣が言う。


「はい。」

と、言ってはみたが、未央奈は緊張していた。


相手は、従一位・関白・太政大臣の豊臣麻衣である。

緊張するなという方が無理かもしれない。


━━真田三姉妹の純奈は、元々、《従五位下》の官位と、《安房守(あわのかみ)》の令外官を持っていたので、麻衣は、未央奈と姉の美彩に、官位と令外官を授けた。


姉の美彩は、《従五位下》の官位と《(伊豆守(いずのかみ)》の令外官。

未央奈には、《従五位下》の官位と《左衛門佐(さえもんのすけ)》の令外官を授けた。


━━《安房守》や《伊豆守》などは、苗字と組み合わせて呼ばれる事が多い。

純奈は《真田安房守(さなだあわのかみ)》、美彩なら《真田伊豆守(さなだいずのかみ)》といった具合いだ。


「私、まだ中学生なのに...宜しいんでしょうか?」

と、未央奈が訊いた。


「ええ、あなたには将来的に、蓮加をサポートする立場になって欲しいの。」

と、麻衣が言った。


このまま、争いがない状態で、妹の蓮加に引き継ぎたい...。

麻衣は、そう願っていた...。


「かしこまりました。」

と、未央奈は頭を下げた。


━━突然、

《ゴホッゴホッ》

麻衣が咳き込んだ。


「麻衣様、大丈夫てすか?」

未央奈が声をかけた。


「ええ、大丈夫よ。」

と、麻衣は言った。



━━その頃、徳川七瀬にも動きがあった。


七瀬自身には動きがなかったが、七瀬を推してる女子高生達が、非公式のファンクラブのような団体を結成してしまったのだ。


それを知った七瀬は、本多花奈に相談した。


「各地で、私のファンクラブみたいなのが出来てるみたいなんだけど、どうしたらいいのかな?」

と、七瀬が訊いた。


「承認はしないで、取り敢えずは黙認致しましょう。」

と、花奈が答えた。


━━花奈には、考えがあった。


全国にファンクラブみたいなのが出来れば、形勢が逆転して、徳川七瀬が天下を取れるかもしれない。

承認さえしなければ、いざ問題が起きても、知らぬ存ぜぬで通せる。

花奈にとって、これはチャンスだと思った。



━━やはり、麻衣は大丈夫ではなかった。


あの咳き込んだ日以来、日々、体調が悪化していた。

そして、大坂女学園近くの病院に入院してしまった。

段々と、体調が悪くなって来て、寝たきりの時間が増えて来た。

石田絵梨花、徳川七瀬、真田未央奈達が、代わる代わるお見舞いに来ていた。


「絵梨花...。」

麻衣は絵梨花の手を握ると、

「蓮加の事を...お願いね...。」

と、言った。


「かしこまりました。」

絵梨花が返事をした。


「七瀬さん...。」

次にお見舞いに来た七瀬に、麻衣は、

「蓮加を...お願いします...。」

と、頼んだ。


「かしこまりました。」

七瀬が答えた。


「未央奈...。」

今度は未央奈に、

「蓮加を支えてあげてね...。」

と託した。


「かしこまりました。」

未央奈は頷いた。


未央奈はともかく、絵梨花と七瀬の二人に、妹の豊臣蓮加の事を託した事が、このあとの出来事を複雑にしてしまった。


そして病状が悪化した麻衣は、この世を去った...。


麻衣は生前の活躍が、朝廷の眞衣より高く評価され、《正一位》の官位が授けられた。


豊臣麻衣、高校二年生。

戦乱の世を終わらせ、正一位、関白、太政大臣までになった、女子高生初の天下人の人生は、美しく幕を閉じた…。

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