歯車

第24話

武田真夏が、この世を去って間もなく、“それ”は、上杉一美にも迫っていた。


真夏と同じように、度重なる戦などから来るストレスや疲労などが、一美の身体を蝕(むしば)んでいた...。


━━越後地区春日山女学院付近の病院。

一美は、病室で寝ていた。

直江かりんが付添っている。

「かりんちゃん...。」

と、弱々しい声で一美が言った。


「なんでしょうか?」

と、かりんが言った。


「私も、そろそろかもね...。」

一美は手を差し出した。


「何をおっしゃってるんですか...。」

かりんは、一美の手を握った。


「向こうの世界に行ったら...また真夏と勝負しようかなぁ...。」

一美は、悪戯っぽく笑った。


「一美様...縁起でもない事を...。」

かりんは、涙を堪えて笑って返した。


「し、史緖里(しおり)の事を...お願い...してもいい...?」

と、一美は言った。


「一美様が卒業されたら、史緖里様にお仕えするつもりです。」

と、かりんが言った。


━━上杉史緖里(うえすぎ・しおり)は、春日山女学院二年生で、一美の妹だ。


「うん...お願い...ね...。」

一美は言ってから、

「か...かりんちゃん...。

今まで...あり...がとう...。」

と続けた。


「はい。」

と、かりんは頷いた。

そして、一美は静かに目を閉じた...。


上杉一美、高校三年生。

《義理》と《人情》という言葉が良く似合う、真っ直ぐな美少女は、永遠の眠りについた...。



━━安土女学園天守。


上杉一美がこの世を去ったが、佑美にはまだ、立ちはだかる強敵がいた。


広島県安芸(あき)地区吉田郡山(よしだこおりやま)女子高等学校三年、毛利まあや(もうり・まあや)である。

茶髪のショートが良く似合う美少女だ。

文武に長けていて、更に安芸地区が海に近い事もあり、モーターボートや小型船舶を巧みに操り、海上戦も得意とする。

まあや率いる毛利水軍(もうりすいぐん)は、全国トップクラスの実力だ。


まあやの車はマツダ・センティアで、色は山吹色だ。


━━足利理々杏が将軍時代に仕掛けた、佑美包囲網の呼び掛けに応える形で、佑美と対立していた。

佑美が石山女学院を攻める際、石山女学院が海に近い為、海側からも攻めたのだが、その時には、本願寺側に加勢して、佑美を攻撃して来た。


毛利水軍は手強く、石山戦争が長引く原因の一つになった。

佑美が天下を統一する為には、絶対に倒さなければならない相手である。


「麻衣、玲香。」

佑美は、羽柴麻衣と明智玲香を呼んだ。


「はい。」

と、麻衣が佑美の所へやって来た。


「お呼びでしょうか?」

続いて、玲香もやって来た。


二人とも安土女学園に来ていたのだ。


「麻衣、安芸の毛利を討って欲しい。」

と、佑美は言った。


「かしこまりました。」

麻衣が返事をした。


「私(わたくし)は、何をすればよろしいでしょうか?」

と、玲香が訊いた。


「玲香は、坂本(さかもと)女子高で待機をして欲しい。」

と、佑美は言った。


坂本女子高等学校は、南近江地区の学校で京都がある山城(やましろ)地区とも隣接している要(かなめ)の学校だ。


「かしこまりました、すぐに待機致します。」

と、玲香は言った。


そして玲香は、天守を出ていった。


「━━玲香の事、どう思う?」

と、佑美は麻衣に訊いた。


「凄く真面目で、賢い方だと思います。」

と、麻衣は答えた。


「そうだね。」

と、佑美は微笑した。


「ただ...。」

と、麻衣は言った。


「どうした?」

佑美が麻衣を見る。


「少し真面目過ぎるので、色々と思い詰めて、潰れてしまいそうな気がします。」

と、麻衣は答えた。


「麻衣もそう思う?」

と、佑美が訊いた。


「はい。」

と、麻衣は答えた。


「私も、そう思ってるんだ。

だから、今回は遊軍(ゆうぐん)という形で、少し気持ちと身体を休めて貰おうと思って、待機にした。」

と、佑美は言った。


「あら?佑美様、私のお休みは?」

と、麻衣は悪戯っぽく訊いた。


「べー。」

佑美は、麻衣に向かって舌を出した。


そして、二人は笑った。


その時、麻衣は思った。

(あと少しで、この戦乱の世も終わりそうね...。)



━━天守を出た玲香。


(佑美様は、いつも私より羽柴さんを先に呼ぶ...。

勿論、付き合いが長いのも分かるけど...。

それに、私は待機...。

もっと、佑美様のお役に立ちたいのに...。

......!?

もしかして...私...嫌われてるの...?)


少しずつ少しずつ、玲香の中の歯車が狂い始めていた...。

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