〇〇がない!!

第15話

「チュッ」

武田真夏は、マカロンに軽くキスをしてから食べた。


━━躑躅ヶ崎女子高天守。

真夏は大好きなマカロンを食べながら、今後の戦略を練っていた。


「ま、真夏様...。」

ガッカリしたような声で、真田純奈が天守に来た。


「あら純奈、どうしたの?」

と、真夏が訊く。


「━━ないんです、何処にも...。」

と、純奈が言った。


「何か失くしたの?」

真夏が心配そうにする。


「塩アイスがないんです...。

スーパーにもコンビニにも...。

どうやら、甲斐地区全域から塩アイスが消えたようです...。」

と、純奈が答えた。


「えーっ!!」

真夏は、両手で自分の頭を押さえて言った。


━━困った時に、頭を両手で押さえる...。

これも真夏の癖である...。


「私も好きなのに...。」

と、真夏もガッカリした。


━━塩アイスとは、以前ある女性アイドルグループのメンバーが、焼肉屋で食事をした際に、店員の《シューアイス》を《塩アイス》と聞き間違えたというエピソードがあり、それを商品化したもので、この時代の女子高生に大人気のデザートである。


「何で...。」

真夏はしばらく考えていたが、

「もしかして、今川...!?」

と呟いた。


塩アイスを製造してる工場は、駿河地区と相模地区にある。

きっと、同盟破棄に激怒した今川ちはるが、北条飛鳥と結託して工場から甲斐地区への出荷を止めたのだと、真夏は思った。


━━この時代の女子高生は、かなりの力を持っていて、大名クラスの女子高生なら、工場に頼んで出荷を止める事など、そう難しくはなかった。


「ちはると飛鳥め...。」

と、真夏は言った。


甲斐は、駿河と相模から塩アイス止めをくらってしまった。


「こうなったら、意地でも駿河を制圧するわ!!」

真夏は拳を握りしめて、

「純奈、戦の準備をお願い。」

と、純奈に言った。


「かしこまりました...。」

純奈は言ってから、

「ただ...。」

と言葉を濁した。


「どうしたの?」

真夏が訊く。


「今川は北条とも同盟を結んでいるので、すぐに動くのは危険かと...。」

と、純奈は言った。


━━真夏達が駿河に攻め込んだ隙に、北条が攻め込んで来るかも知れない...。


「━━それもそうね...。

少し様子を見ましょう。」

と、真夏は言った。



「甲斐の武田が、駿河と相模から塩アイス止めをされているようです。」

と、直江かりんが言った。


━━春日山女学院天守。

かりんと上杉一実は、窓から外を見ていた。


「そうみたいね。

きっと同盟破棄されたかからかもね。」

と、一実は答えた。


この時代の女子高生にとって、塩アイスはとても大切なデザートである。

勿論、一実やかりんも塩アイスが大好きだ。


「一方的に同盟破棄した真夏にも問題あるけど、それにしても塩アイス止めはやりすぎだよね...。」

と、一実はかりんを見た。


「少々、やりすぎかと...。」

と、かりんが答えた。


「......。」

一実は少し考えてから、

「かりんちゃん。」

と、声をかけた。


「はい。」

かりんは一実を見た。


「ちょっと、一緒に来て欲しいんだけど...。」

と、一実は言った。



━━数日後。


「真夏様!!」

と、純奈が天守に駆け込んで来た。


「どうしたの?」

真夏は、びっくりした様子で純奈を見た。


「塩アイスが入荷しました!!」

と、純奈は嬉しそうに言った。


両手には、塩アイスが沢山入った袋を持っていた。


「えっ、本当に!?」

と、真夏も笑顔になって、

「ちはるが、塩アイス止めを解除してくれたのね。」

と続けた。


「今川ではございません。」

と、純奈は答えた。


「え?なら飛鳥?」

と、真夏が訊く。


「北条でもございません。」

と純奈。


「じゃあ、誰が...?」

と、真夏は首を傾げた。


「越後の上杉一実様です。」

と、純奈は答えた。


「!?」

真夏は目を丸くした。


《上杉一実》の名前が出てくるとは、思ってもいなかったからだ。


「一実が!?」

と、真夏は言った。


「はい、塩アイスの工場が越後にもあるらしく、上杉一実様が越後の工場に、甲斐への出荷を頼んで下さったようです。」

と、純奈が言った。


━━純奈は、上杉一実の事を《一実様》と読んでいる。

同盟を結んでいる相手校ならまだしも、敵の大名に《様》を付けるのは珍しい。

一実は、その真っ直ぐな性格から、敵の女子高生達からも尊敬されているからである。


「一実...。」

真夏は言ってから、

「━━有難う...。」

と呟くように言った。


上杉一実は、敵に塩アイスを送った...。

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