正徳寺の会見

第3話

━━愛知県尾張地区富田にある、正徳寺ホテル一階。


そこのラウンジで、愛未は待っていた。

その横には、一人の男子生徒が座っている。


「待たせたね…。」

と声がする。


愛未は、声がした方を向く。


「!?」

愛未は目を見開いた。


そこに立っていたのは━━佑美である。

自分で呼び付けたのだから、本来驚く事ではないのだが、愛未が驚いたのは佑美の服装である。

白いロングのフレアスカートに、ジーンズ系のジャケット。

カジュアルなのにどこか上品な、気品と清潔感溢れる美少女スタイルだ。

元々が美少女なので、似合わないはずがない。

ラウンジにいる他の客も、思わず見とれてしまう。


「う、うん、まぁ…座りなよ。」

と愛未が言う。

(佑美は、ガサツというイメージが浸透しているが、実は違う...。

しっかりとTPOをわきまえている…。)

愛未は、 そう思った。


促されて佑美が座る。


「要件は?」

と佑美が訊く。


「━━実は…。」

愛未が語り始める…。



「……!?」

佑美は驚きを隠せない。


「どうかな?」

と、愛未が訊く。


「と、突然過ぎるだろ…。」

佑美が口を開いて、

「━━いきなり弟と付き合えって…。」

と言った。


「まぁ、そうなんだけど…。」

愛未は弟を見てから、

「こう見えても、うちの弟、結構モテるんだよ。」

と続けた。


━━確かに、愛未の弟で一年生の斎藤淳(さいとう・じゅん)は、なかなかのイケメンである。


「そんなにモテるなら、別に私じゃなくても.....。」

佑美は、少し間をおいて、

「なのに、何で私...?」

と言った。


「以前、私と争ってる佑美を見て、一目惚れしたみたい。」

と言って、愛未は苦笑した。


「か、変わってるな...。」

佑美はポカンとした。


「で、どうかな?」

愛未が促す。


「......。」

佑美は少し間をおいて、

「きゅ、急過ぎて驚いてる...。

少し時間を貰えないかな?」

と答えた。


「分かった。」

と、愛未は言うと、

「今日はこれで帰るよ。」

と、淳を見た。


淳は黙って頷くと、佑美の方を見て、

頭を下げた。


そして二人は、佑美を残してラウンジをあとにした。


━━姉に付き添って貰っての告白など、有り得ないと思われただろう...。

しかし、この時代は、これが当たり前なのである。


━━戦国時代、武士の子供は、自分で相手を決める事が出来ず、親が戦略結婚をする為に、結婚相手を決めていた。

この時代も、それと同じように、男子生徒、特に姉がいる男子は、むやみやたらに勝手に恋愛が出来ず、姉の戦略の為の、戦略恋愛の要員としての位置付けが強い。

だから基本的に男子からは、告白する事が殆ど出来ない。


佑美の性格上、あのような言い方をしたが、佑美の心は決まっていた。


佑美も、淳に一目惚れしていたのだ。

それに、この交際によって斎藤と同盟(どうめい)が結べる。

同盟を結べば、斎藤とは争わなくて済む...。

東から今川が進撃してくる恐れのある今、佑美にとっては、願ったり叶ったりの縁談である。


数日後、佑美は愛未に、淳との交際を承知する旨のメールを送った。


━━それを知った清州の羽柴麻衣は、《緊急集会》と題し、全校生徒を体育館に集めた。

そして、

「この度、織田佑美様が、稲葉山の斎藤愛未様の弟君(おとうとぎみ)、淳様と交際する事が決定致しました。」

と発表した。


「これに伴い、美濃地区と尾張地区での同盟が発足致します。

よって、美濃地区の生徒の方とは、喧嘩などのトラブルを起こさないようにして下さい。

よろしいでしょうか?」

と、麻衣が言う。


「はい、かしこまりました。」

と、全校生徒が返事をする。


━━同盟を結んだ学校は相手の学校と、トラブルを起こしてはならない。

生徒間でトラブルが起きると、最悪の場合、同盟破棄になりかねない。

特に今回は、尾張地区の大名の佑美と、美濃地区の大名の愛未との間で結ばれた同盟なので、学校単位ではなく、地区単位での同盟となる為、尾張地区の全学校は、美濃地区の全学校とのトラブルは厳禁である。


佑美は、少しホッとしていた。

西の斎藤は、味方になった。


あとは、東からの今川に注意をするだけだ...。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る