第6話

<3話>

■魔王城・廊下

外は雷が光っている。

アリスが歩いていると、その後ろからコソコソと魔王が付いて歩く。

アリス、立ち止まって振り返ると、魔王は柱の陰に隠れる。

それを何度か繰り返す。

しびれを切らしたアリスは、急に踵を返し魔王をむんずと捕まえる。


アリス「なにか用でも?」

魔王「い、いや別に用は……」

アリス「そう」


アリス、魔王を捕まえていた手を離す。

魔王、つんのめりながらもジッとアリスを見る。

アリス、ため息をつく。


アリス「そんなにこの仮面の下が見たい?」

魔王「え!? いや、その……どうしてわかったのだ?」

アリス「いつもみんなそういう反応だからよ」

アリス「あなたも言うんでしょう? 綺麗な顔に傷が付いたらどうするんだ。女らしく大人しくしてなさいって」


アリス、昔を思い出し苦虫を嚙み潰したような顔。


魔王「なんでだ? 綺麗も、強くてカッコ良いも両方持ってていいじゃないか」

アリス「え?」

魔王「どっちかじゃないといけないわけじゃないだろう?」

魔王「それに、本当にうっ、うううう美しいと思う!」


魔王、顔を真っ赤にして照れながら言う。

アリス、無言で立ち尽くす。

魔王、不思議に思い小首をかしげる。


アリス「……素振り五百」

魔王「え?」

アリス「素振り五百回! 人を付け回した罰!」


魔王、とぼとぼと中庭に向かう。

アリス、仮面の下で少し照れた顔。


■魔王城・廊下(二階)

アリス、外を見下ろしている。

外では、魔王がへっぴり腰で枝を使って素振りをしている。


アリス<あれから数日、素振りをさせてみてるけど、全然よくならない>

アリス<相変わらず私にストーカーして、見つかっては素振りをさせられて>


アリス「ほんと、学べばいいのに」


アリス<でも、料理の腕だけは上達してるんだよなぁ>


アリス、エプロン姿の魔王を思い出してちょっと笑う。


アリス「ほんと、あのエプロンは似合ってるんだかなんなんだか」

アリス「……でも、このままじゃ駄目か」


アリス、窓を開けて中庭へ飛び出る。


■魔王城・中庭

アリス「そこまで」

魔王「わぁぁぁ!」


急に現れたアリスに、魔王は腰を抜かす。


ポコタ「窓から出入りするのは、どうかと思いますよ?」

アリス「だって出入り口遠いもの」


アリス、ポコタに歩み寄る。


アリス「ハリボテって意味、理解したわ。確かに、そのへっぴり腰じゃいくら鍛えても無駄そうね」

ポコタ「そうですか……、やはりそう思いますか……」

アリス「せめて剣をカッコ良く構えられるようにしましょうか。立ち姿だけでもそれなりに見えるように」

ポコタ「おお! それはいいですね!」

ポコタ「僕のこの姿では、剣の構え方まで教えられなかったので、助かります」

アリス「じゃあ、決まりね」


アリス、魔王の方を向く。


魔王「もう、素振りしなくていい?」

アリス「いえ、剣をまともに持てる筋力は欲しいから、素振りは続けること」


魔王、落ち込む。

アリス、魔王の横に立ち手本を見せる。

魔王、アリスの手本のとおりに構えようとするが、剣が重く腕がぷるぷるして剣先が震える。


アリス「違う、そうじゃないって」


アリス、手を取り魔王に構え方を教える。

触れられている魔王は照れ顔。

走ってくる足音。

鎧を着たイタチのような憲兵が滑り込んでくる。


憲兵「伝令! 勇者を名乗る者が、ザギュー川を渡ってきております!」

ポコタ「何だと!? 確かか!」

憲兵「はい! 船には、『勇者ご一行参上』とのぼりを掲げております!」


アリス、ずっこける。


アリス「いや、それどうなのよ」

憲兵「まもなく、こちら側へ到着する見込みです!」


魔王、あわあわと怯えている。


魔王「どうしよう、勇者来ちゃった!」

アリス「あなたが退けるのよ」

魔王「でも……」

アリス「あなたは玉座に座って、部下に命じればいいの。勇者を倒せって」

アリス「ポコタ、それでいいでしょ? だってあなた、何気に強いわよね」

ポコタ「うむ。ばれてましたか」

アリス「まあ、教育係だしそれなりに強いだろうとは思ってたけど」

アリス「さっき、窓から飛び降りる私を見ても驚かなかったでしょう? それって、私の気配を最初から読んでいたからよね」

ポコタ「先代魔王の組み手の相手をしていたら、いつの間にやら強くなっていましてね」


ポコタ、体の筋肉が隆起し一回り大きくなり、可愛らしかった手をゴキゴキと鳴らす。


ポコタ「ただ、貴女が本気で気配を消したら、気付くのは大変そうですが」


ポコタ、元の姿に戻ってにっこりと笑顔で言う。


アリス<私がポコタと戦ったら、結構厳しそうね>


アリス「さて、作戦は決まったわ」

アリス「魔王、あんたは玉座に座ってふんぞり返ること。それは前もできてたんだから、できるわよね?」

魔王「そ、それはできる……」

アリス「それと、勇者が切りかかってきても余裕の顔で座っていること」

魔王「ええ!? 向かってこられると怖いよ!」

アリス「それでも前みたいに泣かないの」

魔王「でも……」


アリス<説得する時間なんてないのに……>


アリス、ため息をつく。


アリス「うまくいったら、願い事一つ聞いてあげるから」

魔王「本当!?」


目を輝かせる魔王。


アリス<しまった。嫁になれとか言われたらどうしよう>


魔王「じゃ、じゃあ、仮面を外して見せてって言ってもいいのか!?」


アリス、驚き顔。


アリス「まさか、ずっと付きまとってたのって、顔が見たかったから?」

魔王「だって、カッコ良くて綺麗だなんて、両方いいとこ取り。凄いじゃないか!」

魔王「だから、また見たいなって思って……」

アリス「……わかった。上手くできたらね」


魔王、こくこくと頷く。


■魔王城・広間

アリスが切り落とした玉座の手すりが、テープで修正されている。

そんな玉座にふんぞり返っている魔王。

魔王の手前にはポコタ。

魔王の玉座の後ろには、全身黒いローブをまとったアリス。


玉座の前の階段下に、勇者と戦士と僧侶が並んで武器を構えている。

戦士は何故か船のオールを持っている。


勇者「魔王、覚悟しろ!」

戦士「へっ、ここに来るまで長かったぜ!」

僧侶「神の天罰です!」


アリス、向上を述べる姿を見て思う。


アリス<ベタねぇ……。まあ、私も最初そうだったか>


魔王「ここまでたどり着いたのは誉めてやろう」

魔王「だが、私が手を下すまでもない。……やれ」


魔王、顎をくいっと動かす。

ポコタ、戦士に飛び掛かって一撃で気絶させる。


勇者「そ、そんな馬鹿な!」

僧侶「この!」


僧侶、杖でポコタに殴りかかるも、返り討ちにあい気絶する。


勇者「そんな、たった一撃で!?」

勇者「こうなったら、せめて魔王に一矢報いるまで!」


勇者、魔王に向かって走り出す。

ポコタ、勇者に飛び掛かろうとするも、気絶したはずの戦士がその足を掴み阻む。


戦士「させねぇぜ」

ポコタ「しまった!」


迫ってくる勇者。

魔王、向かって来る勇者を見て半べそ。


アリス<仕方がない>


アリスは魔王の前に立ち、勇者に一撃を入れて気絶させる。

ポコタも戦士に一撃を入れており、勇者一行は全員気絶して倒れている。


魔王「し、死んだ?」

アリス「剣の鞘で殴っただけで気絶しただけよ。それより」


アリス、踵を返し魔王に歩み寄る。


アリス「なに泣きべそかきそうになってるのよ!」

魔王「だって、怖かったんだもん」


魔王、玉座の上で膝を抱えて丸くなる。

ポコタを含めた魔王の部下は、二人の会話をよそに勇者一行を縛り上げて外に運び出している。


アリス「これじゃ、ご褒美は無しね」

魔王「えぇぇ!? 頑張ったのに!」

アリス「半泣きでなに言ってるの!」


魔王、落ち込む。

アリス、顔を魔王に近付けで、仮面を少しだけずらし片目だけ出して見せる。


アリス「この顔があなたのご褒美になるかわからないけど、ちゃんと頑張ったら、ね」


アリス、すぐに仮面を戻す。

魔王、びっくりしつつも真っ赤になる。


魔王「お、俺頑張る!」


魔王、勢いよく玉座から立ち上がる。

鼻息はフンフンと荒く、気合が入っているのがその表情からもわかる。

アリス、魔王を見て笑う。


アリス「ほんと、可愛い人」


ナレーション<こうして、魔王の城は獣人と黒ローブの戦士が守り、陥落されることはなかったという>

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ポンコツ魔王と騎士姫物語 月乃陽陰 @tsukihikage

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