第7話 新宿御苑ダンジョン果樹農園

 思わぬトラブルに巻き込まれて時間を浪費してしまったが水や食料はストレージにたっぷり入っているしテントもベッドも入っている。遅くなったら安全地帯で今夜は寝よう。【花森第2ダンジョン】でもそうやって踏破したのでダンジョン内で泊まることには抵抗が無い。


隼人は次々と階層をクリヤして行った。

気が付けば最下層に到達していた。

そこは死霊系のモンスターの巣窟だった。

隼人にとっては初めて遭遇するモンスター達だった。

倒れてもグチャグチャにしても起き上がって襲ってくる。

(まるで雑草みたいだなあ)

ピコーンと効果音が鳴って【???】と表示されていた部分に

【雑草駆除】スキルが表示された。

ゾンビ共も雑草扱いかと苦笑しつつ、大剣に「雑草駆除」と念じつつ大剣にその思いを乗せてゾンビ共に振るった。

するとどうだ!ゾンビ共が白い灰になって消え去ったではないか!


それはスケルトンにも霊体による呪いにも効果があった。

霊魂魔法使ソウルメイジにも頗る効果的だった。


こうなったら無双状態だ。既に1000以上のモンスターが消滅したと感じた時そいつが現れた。


霊魂のみで実体のない悪霊竜イビルスピリットドラゴンだ。こいつは魔法と念動力で、あたかも実体を持ったドラゴンのような攻撃をして来るが自分が攻撃されると姿は幻影で実体が無いので攻撃がすり抜けてしまう厄介なモンスターなのだ。


隼人は大剣に【雑草駆除】を纏わせて切り付けてみた。少しは効いているかに見えたが実際にはさほど効いていない。

(待てよ、雑草を刈り取るのは草刈り鎌の仕事だろう)

と閃いて大剣から草刈り鎌に代えてもう1度攻撃してみた。


すると悪霊竜の左側が消えて、右半分だけが残っている。その後は何度攻撃してもそれ以上消えることは無かった。というよりも再生していると言った方が良いだろう。


まだ何かが足りない。

(殺しても殺しても湧いてくるGみたいだ)

と思った瞬間にまたもピコーンと効果音が鳴って【害虫駆除】が発生した。

と同時に薬剤噴霧器がストレージに収納された。背負い式充電式電動ポンプ予備バッテリー10個付き。容量10ℓ。

噴霧器にはサクランボジュースが入っているみたいだ。市販されているブドウとサクランボの混合ジュースよりはサクランボのジュースを濾紙で越したジュースが目詰まりせずに使えて薬効が良いのだそうだ。

サクランボは隼人がダンジョン果樹農園で育てた治癒能力を有するあの黒糖錦だ。悪霊になり果てた霊魂を善良な魂に治癒することが出来れば……


隼人は悪霊竜に向けて治癒液を噴霧した。風魔法に乗せて遠くまで噴霧出来る。あまり拡散すると敵まで届かない。なので筒状のシールドで覆って無駄なく敵に噴霧する。液状のままぶっかけても良いのだが予め大量のジュースを作っておかないといけないのだ。霧状にすることで経済的に効率的に使えるのだと説明された。


実体の無い悪霊竜が断末魔の悲鳴を隼人の脳内に残して消え去った。

討伐出来たようだ!。


ドロップ品の他に宝箱が現れて念願の【新宿御苑ダンジョン果樹農園主】の扉が見つかった。先に手に入れたカギを握って念じればここの果樹園に転移できる。そこに入れるのは隼人だけだ。


 ここの果樹園の果物は種無し甘柿だった。種が無いので種では増やせない。ならば挿し木か接ぎ木ではどうだろう?

隼人は1ヶ月ここの農園に籠ろうと決心した。

 花森第1ダンジョンの時は、農園での1ヶ月は外の世界の1日に過ぎなかった。それ位なら遭難したと思われて協会に捜索されることは無いだろう。


 ここの農園にも管理人小屋が有った。ここも3LDKのモダンな作りの家だった。食料さえ用意できれば何年でも暮らせそうだ。

 ストレージには【ダンジョン・エメラルドマスカット】と【黒糖錦】の苗木が入っている。こっちの農園でも育つのであればとてもありがたい。


まだ何も植えられていないスペースを耕してサクランボ黒糖錦とダンジョンブドウ【ダンジョン・エメラルドマスカット】をそれぞれの専用畑に苗を植えていった。


ダンジョン果樹農園に於いては季節に関係なく選定出来る。

育ち方が外の世界とは違う。昨日植えたサクランボの苗が、今日は選定が必要なほどになっていた。隼人が将来の樹形をイメージして、作業に便利な高さで枝が横に広がる樹形になるように枝を支柱に結束して行った。この横に伸ばした枝に小枝が出て実が生るのだ。

それはブドウについても同様だ。上に上に伸びる主幹には先っぽにしか実がつかない。だから適当なところで主幹の成長を止めてその下から伸びる複数の蔓を横に這わせてそれに実の生る小枝を出させるのだ。その為にブドウ棚が必要になる。

これも1本の苗木の分だけ作ると【農業魔法】の【作業コピー】で残りの苗木も選定されてブドウ棚も作られて枝の結束まで要点を掴んで成されていった。

隼人の経験。知識がしっかりと生かされているみたいだ。


 苗を植え付けてから1週間で収穫出来た。

味も効能も変わらなかったので隼人は安堵していた。

収穫後の作業も自動的に魔法でやってくれるので年に12回は収穫出来るだろう。

 種無し甘柿は【新宿御苑種無し富有柿】という長い名前だったが、隼人は【御苑富有柿】と呼ぶことにした。


 1か月経っておおよその年間スケジュールを頭の中で作り上げたので隼人は外界へ戻ることにした。外界の品種がダンジョンで育つのか?苗を買って試してたみようと思っている。

逆にダンジョン産の果実はダンジョン外では育たなかった。枯れてしまうのだ。

でも、試してみても悪くは無いだろう。


隼人が協会に顔を出すと、突然1人の女の子に抱き着かれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る