第三話

翌日、東京都 『メタリック』本部にて―—————————



「あぁ~、反省文が書き終わらねぇーっ!」

加藤は頭を抱えて叫んだ。


「何度でもいうが反省文は400文字以上書け」

そんな加藤にパソコンで作業している荒池はそっけなく返す。

「どー考えたってそんなに埋まらねぇっすよ!」

「全く…、本当に反省してるならそんな文字量すぐに埋まるだろ?」

「無理なもんは無理!まだちょっとしか埋まってないのに!」


荒池ははぁ、と溜息を吐いた。

「もう書き始めて3時間だぞ。何文字書いたんだ。」

「えぇっと…、24文字っす!」

「嘘だろお前……、一時間当たり八文字だぞそれ……。」

荒池がそう言って絶望していると、誰かが部屋に入ってきた。


「はぁ……。 加藤さん、あなたまた荒池さんを困らせたんですか?」

「あ…、麗美……。」

そこにいたのは加藤の後輩である本仮屋麗美がいた。

麗美はロングヘアーで、クールな雰囲気を醸しながらもどこかあどけなさもある。

かなりまじめな性格で、加藤には敬語で悪態をつく。


「もう……。いい加減にしてくださいよ……。」

「反省文は今日が初めてだぞ。金属眼使用禁止にされたのは7回目だけど!」

加藤は満面の笑みで答えた。


「なに誇ってんだよ それ提出するまで今日は寝かせねえからな?」

荒池が尻に火をつけた。


「えーっ!? 眠らない努力をしろってことですか!?」

「終わらせる努力をしろよ」

「あ、そうだ! 麗美、教えてくれ!楽に文章を書ける方法をよぉ!」

加藤は麗美に縋りついた。


「え?嫌ですけど?」

麗美はごみを見るような目で嫌がった。


「冷たい!」

加藤はひどいショックを受けた。


「たーのーむーぜ! こんなの一年経っても終わる気がしねーぜ!

それに、お前だってこの先反省文書く羽目になるかもしれねーじゃねーか!明日は我が身として、俺に優しさを見せてくれよ!」


麗美は情けない先輩の姿を見て呆れかえった。

「優しさ? 見捨てていない時点で十分あなたには優しくしてますよ」

「うっ!」

「それに、賢くまともに生きてたら反省文なんて無縁です」

「うぐっ!」

「はぁ……、後輩に教えてもらうとかほんっとみっともない……。」

「ぐはぁっ!」

加藤は撃沈した。


「俺…、もうふて寝します…」

加藤は机に顔を埋めた。


「いや、終わらせろよッ!」

荒池はツッコんだ。


「戦闘能力においては非常に評価が高いのに…」

「なぜこうも性格に難があるのでしょうか…。」

麗美は頬に手をあて頭を悩ませた。


「多分だが昔の環境だろうな。」

荒池はパソコンの画面を見ながら答えた。


「? どういうことですか?」

「ほら。性格って子供のころの環境が大きく左右されるっていうだろ?

こいつ昔親からひどい目にあってたみたいでさ。だから自分のペースを乱されるのが大嫌いらしい」

「…。」

麗美は黙り込んだ。先ほどまでごみを見るような眼をしていたのが何か憐れんでるようなまなざしになった。


「ま、だからと許すわけにはいかねえけどな。

反則は反則だ しっかり反省してもらわねえと」

荒池がそう言って伸びをした瞬間、部屋のドアが開いた。


「うぃーっす!荒池さんお疲れさまーっす!」

「おう、佐伯 お疲れ」

佐伯と呼ばれた青年は、釣り目で瞳孔が小さく一見不良に見えるが、意外にも堅調で面倒見の良い性格をしている。


「はい、お疲れっす…、あれ、加藤どうした?」

佐伯机にうなだれる加藤を見た。


「ハハハハ!お前、ついに反省文デビューか!」

「…あ、佐伯さん……。」

青ざめた顔をした加藤は佐伯の方を見た。


「……聞いてくださいよぉ、この鬼畜400文字以上書かないとお前を不健康にしてやるとか言っちゃってるんですよぉ~」

「風評被害増やすな」


それを聞いた佐伯は笑い出した。

「ハハハ。そうか、それは大変だな!」

「だから、佐伯さん、反省文の書き方教えてくださいよぉ。 みんな俺に冷たくてて……。」


「そうか。 じゃ、加藤……」

「えっ、佐伯さん教えてくれるんですか!?」

加藤は目を輝かせた。


「俺がそばで応援してるぞ! ファイト!」

佐伯は笑顔で加藤の肩を叩いた。


「オ゙ォ゙ォ゙イ゙!」

加藤は吠えた。


「すまん!俺も反省文の書き方わかんねえんだわ!」

「でも、佐伯さんも反省文書いたことありますよね!?」

「え?あんなのまじめに書いたことないよ?」

「やべぇなアンタ」


すると荒池は会話を切って質問をした。

「で、佐伯は何しに来た? いつもはお前仕事が終わったら寮に直行するからここに立ち寄ったのは何か理由があるのか?」

「あっ、そうそう、実は荒池さんに相談したいことがありまして。」

「相談?」

「はい。ここ最近、ゼネコン稲島組の動向が怪しいと話しましたよね?」


荒池には心当たりがあった。

「あぁ、この前までお前が潜入していたあそこか。」

「ええ。その稲島組のことについてなんですが、先ほど自分の潜入を引き継いだ香椎から社長が不正金属眼使用者だという趣旨のメールが送られてきました」

「ほぉ、それで?」

荒池は作業を続けながら訊いた。


「明日には検挙を決行するという旨を荒池さんに伝えに来ました。」

「さすがの仕事の速さだな。作戦はもう立ててるのか?」

「ええ、もちろん!潜入中に脱出経路や稲島社長の行動パターンなどは調査しましたから。」

「よしじゃぁ頑張ってこい」

「はい!また今度!」


佐伯は部屋を出て行こうとしたその瞬間、佐伯は何かを思い出した。

「……っとぉ、そういや言い忘れたことが。」

「なんだ?」

「いえ、加藤にです」

「えっ、俺?」

加藤は意外な流れにびっくりした。


「加藤、実はな、昨日加藤が助けた女性から警察署(メタリックのメンバーは表向きでは警察官となっている)にお礼の電話が来たそうなんだけな……、


その際に昨日助けてくれた方に心から感謝してるという電話が来たそうだ。」


佐伯はつづけた。

「……加藤、お前は確かにトラブルメーカーだが、そのぶん根は自分のことを顧みずに人々を助けようとする漢の中の漢だ。

だから胸張って生きな!」

そう言うと佐伯は加藤の肩を叩いた。加藤の表情は明るくなった。


「では、改めてまた今度!」

佐伯は次こそ本当に部屋を出て行った。


加藤は扉の方をじっと見ていた。

「……どうした、加藤。」


「俺、やっぱりああいうことのために生きてるんだなぁって……。」

加藤は内心安堵していた。


「……まぁ、確かに加藤さんは性格に難があると言えど、悪人とは思ったことはないですね。」

麗美は加藤を見てそう言った。


「……ですんで荒池さん。」

「ん?」


加藤は荒池の方を見た。

「反省文、勘弁してくれません?☆」


荒池の目つきは急に悪くなり、荒池は立ち上がった。


「えっ、そうしたんすか 荒池さ……あがっ!?」

荒池は強烈な拳骨を加藤に入れた。

「な……、なんれ……?」

加藤はそのまま気絶した。


「 ああそうだな 今日はたっぷり眠れ あわよくば永遠にな 」

荒池の表情は鬼になっていた。


「……やっぱり悪人だったかも……。」

麗美は加藤の姿を見てごみを見るような目でボソッと呟いた。


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☆キャラクター紹介


〇本仮屋麗美(もとかりや れいみ)

加藤と同じ第42課の少女。16歳、身長157㎝。

かなりまじめで固く、加藤については冷たい態度をとるも、結局は気にかけている。


〇佐伯タダ大(さえき ただひろ)

第42課の青年。18歳、身長179㎝。

仕事が速く、見た目に反して堅実な性格をしている。妹が5人いる。

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