第19話
「愛ちゃん?久しぶりね。濂ならしばらく事務所の寮なのよ。」
濂ちゃんのお母さんが申し訳なさそうな顔をした。
「ううん。良いの。これ、返しに来ただけだから。」
持ち主が現れないゲーム機。
「私、やらないから。濂ちゃん、寮に持ってけば良いかなって。」
「ごめんね。愛ちゃんに迷惑ばっかりかけて。」
「今度、いつ帰ってくる?」
「わかんないのよ。面倒くさがりだからね、あのこ。」
「だね。」
それから一ヶ月が過ぎても、三ヶ月が過ぎても、ゲーム機はそのまま。
「寮にあるからいらねぇわ。」
愛ちゃんにあげるって。もらってやって。
いらない。
持ち主が棄てた物。
忘れさられた私と同じ。
同じ物は二つはいらない。
最初のうちはちょこちょこ届いてたメール。
今じゃ、五ヶ月前の日付のまま。
一向に新しくならない日付。
『ゲーム、おばさんに預けといたよ。寮に持ってったほうが出来るかなって思うし。仕事、頑張れ。』
たどり着かなかったメール。
新しいアドレスを知らせるメンバーに、私は入らなかった?
今、濂ちゃんの側にいるのは誰なんだろう。
テレビで笑う姿。
ただの視聴者に過ぎない私は、少し痩せたアイドルを見つめるのが精一杯。
心配する資格も私には無い。
誰か心配してくれる人はいる?
「お前ってほんと馬鹿。」
馬鹿な私には、もう、濂ちゃんは遠いよ。
『早く帰ってこーい!』
届かないメールを送信してみては、返ってくるメールに溜め息をつく。
宛先不明で返ってきたメールでいっぱいの送信box。
「ほんとにただの隣の家の人だよ。」
開かないカーテンを見つめながら、きっと二度と開くことは無いんだろうな……なんて想ってみる。
濂ちゃんの未来に、私は居ない。
それが、今の私にわかるたった一つの真実。
忘れるよ。
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