【戦いの果てに】

クリシュナは追跡する。

宝石の足取りを辿って森の中へ。



「ここか……。」



辿り着いたのは巣穴の前。

この大きさだと恐らく主は熊……。



「私が中へ入ります。貴方達はここで待機していて下さい。」



従者を外に待たせ、一人穴の中へ入って行くクリシュナ。


奥に居たのは熊の王。

熊王ジャンバヴァンが待ち受けていた。



「熊さん。その宝石を渡して貰いましょうか。」



にっこり笑い、戦闘態勢をとる。



「渡すものか!人間風情がこの熊王に挑むとは――その喉、掻き斬ってやるわ!」



「うわっ、喋った!ただの熊じゃありませんね!?」



「俺は熊王ジャンバヴァン!俺に挑んだ事を後悔させてやる!」



クリシュナは気づかなかった。

彼がラーマと共に戦った熊王だとは……。


熊王もまた、彼の正体に気づかない。

自分を生み出した、父なるヴィシュヌ神とは知る由もなかった。


互いに気づかぬまま、激しい一騎打ちを続ける。

その戦いは幾日にも渡って繰り広げられた。



「今日でもう7日……。戻って来ないという事は……」



顔を見合わせ落胆する従者達。



『クリシュナ王は戦死した』



従者達はそのニュースを持ち、ドワルカへと帰国する。


だが、二人の戦いは続いていた。

従者達が帰った後、更に14日の時が経っていた。



「手応え有り!」



ザシュッと斬りつけたその傷は、ジャンバヴァンにとって致命傷となった。


その傷を負わされ、熊王はようやく気づく。



俺に致命傷を与えられるのは……

父であるヴィシュヌのみ……

この男は……

我が父ヴィシュヌ神……



「お許し下さい……ヴィシュヌ神……知らぬとはいえ……貴方と戦うとは……」



苦しい息の下から許しを乞う熊王。



「我が父……我が戦友……ラーマ殿……宝石を……受け取って下さい……」



ラーマの名を聞き、クリシュナはハッとした。


なぜ忘れていたのだろう。

前の時代で共に戦った戦友を……。



「ジ、ジャンバヴァン……私は……」



首を振り、熊王は頼み事をした。



「娘を……お願いします……。妻として……迎えてやって……下さい……。」



遺して逝く娘をクリシュナに託す。



「わ……分かりました……。責任を持って……彼女を幸せにします……。」



満足そうに頷いたジャンバヴァンは、ヴィシュヌの名を讃えながら息を引き取った。



こうして、彼の忘れ形見である娘のジャンバヴァティは、クリシュナの第二王妃として迎えられたのである。

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