第42話

帝国の滅亡にまつわる激動の日々を思い出しながら、ユリウスは改めてマクシミリアンに向き合った。

 何を言い出すのかをすでに予測しているのか、面白くなさそうに頬杖をついたマクシミリアンが問いかけてくる。

 

「皇女は知っているのか? 父親の最後を……お前が皇女の騎士になることを願ったのだと」


 ユリウスは苦笑いで首を横に振った。


「伝える気はありません」

「夫選びがいかさまだったことも?」

「もちろん、知る必要はないでしょう」


 今更なんの言い訳ができるだろう。だから、許せなどとても言えない。ユリウスが情報を得るために帝国に潜入し、隠し通路の場所を探り出したのは紛れもない事実。直接手を下してはいないが、皇帝の死に無関係ではない。

 本当は自分のいない場所で、静かに暮らすほうが彼女の幸せなのだろう。分かっていても手放すことなどできない。

 

 ユリウスは二つ持っていた勲章のうち、表に出していた方……マクシミリアンから与えられたものを、取りはずした。


「今度こそ、受け取ってください」


 クナイシュ帝国最後の日にも、一度は返そうとした。その時は断られたが、心が定まった今、やはり手元に置いておくことはできない。二人の君主に同時に仕えることは不可能だ。ユリウスが心から仕えたいのは、オデットなのだ。


「わかった。だが、最後まで仕事はしていけ。それと、忘れるなよ。……主従ではなくなるが、お前と俺が友人であることに変わりはない」

「マクシミリアン……」


 敬礼ではなく、深く腰を折って感謝をしめすと、さっさと行けと追い払われてしまう。


 ユリウスは妻の待つ家に向かい走り出した。




   §

 



 家路を急ぎ、馬車に乗り込もうとしたその時、ユリウスを呼び止める者がいた。


「ユリウス、大変! 私発見したわ。呪いを解く方法を」


 サンドラが弾んだ声で駆け寄ってくる。


「まさか地下に一人で戻ったのですか?」


 咎めると、サンドラは口をとがらせて言った。


「あら、あなたとお姫様のためによ?」

「申し訳ありません。正式な指令は明日になるはずですが、地下の探索は中止になると思います」

「なんですって! あなた何もわかってないわ。ねえ、言ったでしょう。呪いを解く方法がわかったって」

「もういいのです」

「ユリウス!」


 しつこく食い下がってくるサンドラを無視し、馬車に乗り込もうとすると、女のものとは思えぬ強い力で引き戻された。


「ソレハ、許サレナイ……」

「サンドラ?」


 唯の人であるはずのサンドラの瞳が、赤く光るのをはっきりと見た。次の瞬間、地面が大きく揺れた。

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