第36話

二人で炊事場に移動し、桶を片付けたあと、ハンナが裏の井戸で洗濯をすると言ってきかないので、オデットも手伝うことにした。

 ハンナを腰掛けの石に座らせて、言われた通りに井戸の水を溜め、シーツを洗ってみる。足でじゃぶじゃぶと踏み洗いしていると案外楽しく、やることがないオデットにはいい暇つぶしと運動になりそうだった。

 

「あらあら、これでは髪が濡れてしまいますね」


 夢中になって作業をしていると、ハンナが立ち上がり、オデットに近付いてきた。

 言われて、オデットは自分の髪が濡れていることに気付く。オデットの金糸の髪は、そのままにしておくと、地面につきそうなくらい長いのだから仕方ない。昔はたくさんの使用人が競うように髪を編んでくれたが、今はこの長い髪を持て余していた。


「……邪魔だな。いっそ切ってしまおうか」

「旦那様の許可がなければだめですよ」


 そういってハンナは持っていた紐で、オデットの髪を簡単にまとめてくれた。


「……もうわたくしは、皇女ではないから。いつまでもこんな髪をしていたら変だろう」

「いったいどうなさったのですか? 今日の奥様はおかしいですよ」

「おかしいか……そうだな、どうかしている」


 自分でも何がしたいのかわからない。変わりたいという気持ちと、変わりたくないという気持ち、両方が同じくらいの大きさに膨れ上がっていた。

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